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第十八話

 俺は今遺跡の中の闘技場のような場所で絶賛戦闘中だ。円柱状に広がる空間にコロッセオのような円形の舞台とそれを囲むように観客席が螺旋階段のように天井まで重なっていた。


 この席を埋め尽くすほどの観客がいれば溢れんばかりの声にさぞ盛り上がったのだろうが、この場で俺を応援してくれるのはクラゲちゃんのみだ。


 ミラーフェイスとの戦いの後、クラゲちゃんを傷つけないためにここで別れることを決意したのだがクラゲちゃんは俺の想像を超えるほど嫌がったのだ。


 それこそ俺のことを空間断絶で一歩も進ませてくれなかった。暗示スキルを使ってもこちらの暗示を悉く振り払い決してスキルを解除しなかった。


 クラゲちゃんのスキルを解除するのに彼女を攻撃しては本末転倒なのでしょうがなく彼女との行動を継続した感じだ。


 一人だったら例え体の制御ができなくても周りの大事なものに危害を加えることは無いから気が少し気が楽だったんだがクラゲちゃんがいる以上、俺はこれまで以上にこの体の手綱を手放さないように気を引き締めないといけない。


 俺が今戦ってるのは巨大な闘技場を覆うほどの巨体の持ち主で今まさにこちらを叩き潰そうと右腕を振り下ろしてきているが、着弾する前に俺はジャンプし腕を弾き返す。


 巨人は弾かれた腕に体を引かれ観客席を潰しながら壁に埋もれてしまった。とどめは刺さずにクラゲちゃんの元に戻る。


 彼女に遺跡の案内を任せてから、やたら魔物や魔獣と戦うがそれも意味のあるものだと気付いた。


 巨人は俺との力の差をはっきりと感じてしまって、その場から動こうとしない。するとさっきまで巨人が立ち上がっても届かなっかった天井が倒れこむ巨人の頭上にまで迫っていた。天井が降りてきたわけでは無い。引き伸ばされた空間が元の大きさに戻ったためだ。


 この遺跡は一定の階層ごとに配置されてる魔獣を倒すというか認められないと先に進めないようになっているようなのだ。まあここの連中を見るにこの仕様を把握しているのはおそらくクラゲちゃんしかわかっていなさそうだが、もしかしたら他にもいるかも。


 どういうわけかここの魔獣たちは知ってか知らずかこの遺跡に半ば強制的に階層の門番をやらされている。そう思うと少しかわいそうに思えてくるな。まあ困ってる様子もないのでこれ以上どうこうするつもりは無いが。


 俺は巨人を横目に通り抜け反対側の出入り口を進み、奥に見えて来た階段を上がり次の階に進む。






 ・・・






 空


 透き通るようにどこまでも青に、この世界の空特有の薄く輝くベールが揺らめきながら儚く消えまた現れる。


 初めてこの空を目にした時はどれほど感動しただろうか、多分俺の事だろうから凝ったセリフどころかありふれたコメントすらできずにただ茫然としていたに違いない。


 俺は何回か異世界に足を運びいくつかの(ゲート)から異世界に行っていたとき、その都度変わる雄大な自然に度肝う抜かれていたが、どの門から入っても変わらない空への感動は次第に薄れていった。


 まさか再びその感動を味わうことになるとは思いもしなかった。



 泣きたいのに泣けないのはこんなに苦しいものだったのか…… 



 内から込み上げる感情を唯一吐き出せる場所から一気に自分の感情を爆発させた。今まで地の底でしか響かなかった絶叫が初めて空の下で放たれる。


 化け物の咆哮は空を切り裂きどこまでも広がり続ける。






 ・・・






 少し落ち着いた。


 飽きるまで叫び続けたおかげで心の余裕を少しだけ取り戻せた。そうじゃなかったら何の理由も無く走り回っていたかも。


 俺の奇行が収まったのを見計らってクラゲちゃんが遺跡の屋上にやってくる。


 意味わからんことだが、俺が苦労して登って来た遺跡は入り口が屋上にあったのだ。まあそのおかげでこんな素晴らしい景色が見れたのだから細かいことを言うつもりは無い。今はただここに来れてことが無性に嬉しい。


 改めて思うと、本当に大変だった。こんなに強靭な肉体があってここまで苦労するとは思いもしなかった。普通に強い液体、気に入らないとすぐ閉じ込めるメンヘラクラゲ、陰湿な根っこ、俺を食おうとした巨人、etc.etc.etc……


 長かった、マジで。


 脱出できたのも束の間、押し寄せる今までの苦労の記憶が俺を休ませてはくれない。あれは大変だったと思い出せばこれも大変だった、と思い出せばあれはやばかった。


 頭の中は遺跡での思い出で渋滞を起こし、思考を前に進めることができなかった。


 しばらく思い出にふけっているとクラゲちゃんが横に立っているのに気が付く。


 最初はいろいろあったけどクラゲちゃんにはここまで精神的に相当助けられたな…… 彼女がいなければ俺は半ば体の制御を諦めていたに違いない。


 彼女のおかげでここまで来れたといっても過言ではない。


 俺は隣に立つ彼女を仕草やスキルでは伝えられない感謝とか感情を込めグッと抱きしめる。突然の事に彼女は最初は驚いていたがしばらくしてからいつもの表情を浮かべている。


 暫く抱きしめた後、改めて周りを見渡す。遺跡の周りは草原が広がり川が流れ尾根が広がり森が生い茂るパソコンのデスクトップでしか見たことが無いような自然が広がっているが、それよりも目を引くものがこの広大な自然を取り囲むようにせりあがった壁と死体だ。


 まず死体だがかなりの巨体の死体。遺跡の地下で遭遇した巨人がもはやただの人に感じるくらいの巨体の持ち主だ。


 相当年月が経っているためか体が朽ち果て緑に覆われ今や自然の一部になっている。だがそんな目を引く死体は一つでは無い。遺跡の周りにいくつもの巨人の死体が横たわって自然の一部となっている。


 異様なのはどの死体も遺跡の方を向いて死んでいるということだ。この巨人たちは明らかにこの遺跡を目指していたのがわかる。そしてこの巨人の軍団は目的を果たすことができなかったことも。


 遺跡から見える山にも思える一際巨大な骸が見える。電車に乗っている時、窓から見えた富士山を見ているような感覚だ。


 おそらくこの巨人たちの長か何かだろう。なぜこの巨人たちは目的を達成できなかったのか。そんなことを想像している時だった。


 ものすごい速度で何かが遺跡に向かって飛んでくる。こちらを目掛け空気の膜を破り衝撃波を生み出しながら飛んできたものを当たる寸前で掴み取る。


 危うくクラゲちゃんに当たるところだった。飛んできたのは槍だ、鉄を加工するような技術的な槍では無く。棒に何か魔獣の牙か角を括りつけただけの古代の槍だ。巨人の死体からここまでどのくらい離れてると思ってんだ。


 飛んできた方を見ると山のような巨人の死体の上にこちらを望む者が一人。この槍を見るに戦いは避けられなさそうだ。クラゲちゃんに遺跡の中に隠れるように暗示を送り俺は戦いに備える。

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