第十七話
改めて自分を見ると顔に目鼻耳は無く大きな口のみでマジで地球外生命体って感じだな、この状況でこんな呑気なこと言うのもなんだが。俺はいまだミラーフェイスの鏡写しの牢獄に囚われたままだ。
この体に宿るもう一つの自我だが、俺に体を譲ってからはどこか深いところに潜めているのか、その存在を何一つ感じない。
何がトリガーになって出てくるのか、大体の予想はできるがまだ確信はできない。もっと深く体について知る必要がある。そのためにはこの状況をどうにかしなくては……
この空間は地に足が着かず、ここだけ重力が無くなったようにフワフワと体が浮かんでいる。手足をどれだけ振り回そうと体が空回りするだけで意味が無い。
落ち着け、俺が焦るとまた体の主導権が取られる。そうなるとクラゲちゃんにまた被害が及ぶ。
心の中で息を整えてから考える。
マナ操作でいくら身体を強化しても当たらないと意味が無い、どうにかしてこの空間の壁に干渉しないと…… そうだ! 俺もアレを使ってみよう。
グッと左肩辺りにマナを集め、それを体の外側に向かって腕を伸ばすように意識してみる。するとみるみると集めたマナが体の外に伸びていき、やがて腕の形を形成し始める。
出来た!
嬉しさのあまり思わず笑ってしまう。試しに動かしてみると、案外すんなりと動かせてしまう。体が勝手にやったことだが、どうやら体が経験したことは俺にもちゃんと反映されるらしい。
理屈はわからないがそういうものとしか言えない。今はこれが今後も役に立つことを祈るしかない。
俺は自分で作った腕を見てあることに気付いた。
腕が少し違う?
体が勝手に作った腕と、俺が作った腕の作りが少し違う。指の本数や関節の数などは一緒だが腕自体の大きさや長さ、ディティールが違うように感じた。まるで他人の腕を見ているかのような感覚に俺はある考えが浮かんだ。
腕の作りに違和感があるのは、俺と体が想像する腕に違いがあるから? 俺はさっき腕を伸ばすように想像したから腕が生成されたけど、もし別の物を想像したら?
本来なら悠長にスキルの実験なんかしている場合じゃないのだが、自分の好奇心や探求心を止めることはできない。
早速俺はマナを今度は右手に集め、試しに剣を想像する。飾り気のない両刃で斬るより叩くを意識した肉厚な刀身に自分の腕ぐらいの長さを想像すると、掌からジャキンと音が鳴りそうな勢いでブレードが飛び出した。
手を前に向けていてよかった、少しでもこちらに向けていたら自分で生やした剣が突き刺さっていたところだ。
伸びたブレードは俺が今まで届かなかった空間の壁に届き、刃の三分の一が壁に突き刺さり見えなくなっていた。そのままこの空間を切り裂こうとするが手を開いたまま腕を伸ばしているのでかなり振りにくい。
何かいい案は無いか考えていると、俺はミラーフェイスに飛び掛かった時に吹き飛ばされた左腕が俺の体を離れてもその形を保っていたことを思い出していた。
俺はさっき生やした左腕を元々の左腕で引き千切る。数秒待っても引き抜かれた腕はその形を保っている。
やっぱり! 放出されたマナは役目を終えると霧散して消えるから、てっきりこれも消えると思ってたけど、このスキルで作った物は消えないんだ! それなら!
俺は左手で刃を抑え右手から生えた刃を無理やり取り外す。そのまま刃を両手でお構いなしに掴み振り回す。剣の心得など無いためかなり滅茶苦茶に振っているが、俺の圧倒的な膂力で振り回されたこれまた圧倒的なマナから作られた刃から生まれる破壊力にミラーフェイスの牢獄は成す術無く切り裂かれる。
銀色の光景から一転して真っ暗闇に戻ったがどこか懐かしい。眼前には自分の必殺の技を切り裂かれ動揺するも身構えるミラーフェイスがこちらを見据える。
こちらも構えを取り臨戦態勢に入るが、これ以上無駄な争いはしたくない。互いに莫大な生命力の持ち主でこれ以上やっても泥沼なのもあるが、俺は正直戦いが好きじゃない。そういう場面になったら戦うが、極力そういうのは避けたい。
俺は意を決して構えを解く、そして暗示スキルを起動し奴に自分の意思を伝える。戦いの最中、僅かな隙を的確に突いてきたミラーフェイス相手に無防備な状態を晒すのはなかなか勇気がいるが、暗示を信じ込ませるためには仕方ない。
俺はこれ以上戦う意思が無いとミラーフェイスに暗示を送る。どうなるか分からない、もし戦闘が避けれないなら…… やるしかない。
奴に表情というものは無い、というか顔が無いので表情を読むとかができないので、俺はただいなることしかできない。すると奴から発せられる緊張感のような雰囲気が少しだけ弛む。一応人型の形をしているので肩が少し下がったように見て取れる。
どうやらうまくいったようだ、俺は元居た場所に戻るため少し体を動かす。するとミラーフェイスの下がった肩がまた上がる。
わかりやすいな……
俺は奴を安心させるためにも、奴の行動を無視してその場を後にする。
・・・
元の場所に戻るとクラゲちゃんが真っすぐ立って優しく微笑みながら俺を見ている。傷はもう治ったようだ。が、俺は傷の心配よりも心配なことがある。ミラーフェイスと違って表情がある分、表面的な感情を読み取りやすいがその内に秘めている感情を探りにくい。
俺がやったわけではないがクラゲちゃんを傷つけたことには変わりない。正直この世界で孤独じゃなかったのは俺の中ではかなり大きい。出会いこそあれで、別に話したわけではないが。そんな少しだが一緒の時間を過ごした存在に嫌われるのは、結構来るものがある。 まあ仕方ないが
俺はスキルを使いクラゲちゃんに謝罪の意思を伝え、それからここから一人で行くという意思を伝える。抑えたとはいえ、体が暴れ出すか分からない以上また危害を加えてしまうかもしれない。その方が嫌われるよりも辛い。もう一つ気掛かりなのは……
そう思っていると、俺の暗示を受け取ったクラゲちゃんがあたふたしている。「そんな!」とでも言っているかのようにすがり寄ってくる。よかった嫌われたわけじゃないみたいで、そう呑気なことを思っていると、クラゲちゃんの手からピーピー鳴き声が聞こえてくる。
すごく無責任なのは承知だが、俺はピーちゃんをクラゲちゃんに任せようと思う。この体に優しさは無い。いつか何かの拍子にピーちゃんの石の体は簡単に砕け散ってしまうだろう。今回も相当危なかったに違ない。
俺が上に上がるまでできるだけ道中の魔物を倒していくからそれで…… 語彙力が無くこのあとに続く気の利いた言葉が出ないが、とにかくそれで勘弁してくれ。
クラゲちゃんを残し俺はその場を後にする。俺の体を掴んで引き留めようとしてくるが、それを振り払い進み続ける。
・・・
しばらく進んでも通路の終わりは見えず、通路の先から後ろに居るはずのクラゲちゃんが見えてくる。




