第百五十六話 気まずい
魔獣に囲まれ絶体絶命の状況から一転して、胸倉を掴まれ足が浮きそうになる程の膂力で持ち上げられ、ドスを利かせてもなお綺麗な顔立ちで睨まれ、自分の命は最早風前の灯火と思えるほどの状況に陥ってしまった。
「あ……ぐっ、グルジイデズ……姉崎、さん」
「……」
しばらく無言で睨まれながら体を浮かせた後、ようやく地面に降ろしてもらえ一命は取り留めることが出来た。
「ハァ、ハァ……」
怪我人にこんな仕打ちはあんまりだ、と言わんばかりに姉崎を見上げるが目が合った瞬間その考えは消え去った。
どす黒い眼差しで見下ろされ体が強張り綾瀬は反射で訳も分からず謝罪を口にするしかなかった。しかし
「……何が?」
「え?」
「だから、何がごめんなんだよ?」
「それは……」
綾瀬の軽率な謝罪は姉崎をさらに怒らせる物でしかなかった。内心では2人に黙って行動した事だと確信しているが、それこそ悪い事だとは思っていない。
正直言って2人を危険な目に遭わせたくないし、何よりここまで来るのに自分は彼女たちには頼りっきりだったし、これからどこまで彼女たちの力を借りられるか分からないし当てにするわけにもいかない、と思っていたからの行動だった。
どれだけ睨まれ詰められても、その気持ちは変わらない。
「仲間じゃ、ねぇのかよ……」
ボソッと呟かれた言葉に綾瀬はただ下を向くしかなかった。
「もうその辺にしましょ。それより綾瀬くんの手当てを」
そう言って霜月さんが綾瀬の傷口に向かって手を伸ばすとそこから優しく暖かい新緑の光が注がれる。まるで傷の部分が温泉に浸かっているような感覚だ。
痛みが和らぎなんだかくすぐったい。しばらくすると傷口は完全に塞がり元の状態に戻っている。
「ありがとうございま……」
「感謝するなら最初から私たちを除け者にしないべきでは?」
その言葉と鋭い視線に綾瀬の心はボロボロだ。傷は完全に癒えてはいるが心の傷は広がるばかりでプラスマイナスゼロと言っても過言では無い。
「え、えーっと、その……どうしてここに?」
「なんでもいいだろ。それよりも、まだ終わってねぇ」
とにかくこの場の空気を変えたくて適当に気になったことを聞いてみたが全く取り付く島もなければ、至極真っ当な意見にまたもや反射で謝る。
モヤモヤすることも結構あるが仕方なく一旦忘れて気を取り直すと、仕舞ってあった通信機から声がする。声の感じから立花だと綾瀬は気づいた。
「綾瀬くん聞こえますか? 今そちらに2人が向かいました! 合流したら取り敢えず門まで一度戻ってください!」
「わ、わかりました」
今の通信が聞こえていたのか2人はもう既に移動し始めていて綾瀬は黙ってそれについて行った。




