第十一話
誤字や間違った表現をしてないか怖い
切り離され外界から隔絶されたこの場所で俺は茫然と項垂れている。周囲は無残に崩れ去り床や天井に大きな穴が穿たれていた。
あれから数時間、俺はこの空間から抜け出すために試行錯誤というより手当たり次第に暴れ散らしたんだが結果は見ての通り。脱出の手がかりは何一つ掴むことはできず結果としてここにただ項垂れていた。
俺のこの見た目で項垂れる様子はなんだか間抜けな感じだ。横にはそんな俺の様子を察してかこちらを心配そうに見つめる存在、目のやり場に困る肉付きの体と頭に大きく覆い被さるクラゲみたいな傘が特徴的な彼女がいた。
俺が寝ている間に膝枕を仕掛け、この空間に俺を閉じ込めた張本人の女性型の魔獣だ。この場所の生き物は人の形をしているため魔獣と呼ぶのは些か疑問が残るが魔獣か魔物の区別しかないのでしょうがない。
誰のせいでこんな事になっているんだと言いたくなるが彼女を見てると相変わらず許してしまう自分がいる。
彼女を見てるとこの体の本能が彼女を排除しようと動き出しそうとするのがわかる。まだ簡単に抑えられる程度だがこの状態がずっと続けばいつか彼女を殺してしまいそうだ。
できれば彼女を殺したくない。呆れて物も言えないが今の俺を咎める存在はここにはいない。彼女を殺さないためにもこの体から発せられる彼女に対する危険信号を止める必要がある。そのためにはここから早いこと脱出しなくてはならない。
まあ脱出する手立てが全く見つからなかったわけだが。
俺にできることはあらかた試したと思う。最初は通路の先まで思いっきり走ってみたりした、そうするとその場所に置き去りにしたはずの彼女が通路の先から現れたのだ。何度か試したが結果は同じつまりこの通路はループしていることに気付いた。
それから壁を突き破ったり天井を崩したりしたが結果は同じ、壁を突き破って進んでも反対の壁から、天井を崩して進んでも床から這い出て来てしまう。
それからはお察しの通り、辺りを手あたり次第破壊し尽くしたが何も変わらず項垂れているというわけだ。
この体は何でもできて気に入らないことはぶっ飛ばせばどうにかなると思っていたが現実はそんなに甘くないらしい。
意気消沈しながら、ふと彼女のほうを見た。
そういえば、こんな時にもなんだが彼女の名前を考えてなかったな。
俺は脱出の手立てが思いつかず、やることが無くなったため軽い暇つぶし感覚で彼女の名前を考え始めたのだった。
異世界の生物の名前は調査や研究により学名や長ったらしい名称がついているのだが俺たちのような調査員の間では結構わかりやすく名前が付けられている。見た目もそうだが主に特徴的な行動からも名前が付けられる。
代表的なもので言うと、火爪虎や火吹き熊、金切り雀などだ。
そんな感じで目の前の彼女もわかりやすい名前を付けたい。やはりいつまでも彼女彼女と言うのもなんだか照れくさいというか、まあそんな感じだ。
まあここで真剣に名前を考えてもそれを呼ぶのは俺しかいないので気楽に考えられる。
俺は名前を考えるため彼女のほうに体を向け照れる彼女を無視しながら観察し始める。やはり特徴的なのはこの頭に乗っかったというか被っているクラゲみたいな物だ。
ミラーフェイスみたいに見たまんま名付けるなら…… だめだぜんぜん思いつかない。クラゲって英語でなんて書くんだっけ? 確かゼリーみたいな感じだったきがする。どうすっかなー クラゲ娘とかになるのか? いや娘って見た目じゃないしなー
そう思った瞬間、自分の中のマナがわずかに外に流れる。違和感を感じ視点を彼女に戻す多彼女の顔が急に真顔になりこちらを刺すように見つめてくる。あまりにも突然表情が変わったので思わず驚いて身を少し引いてしまった。さっきまで感じていた違和感はいつの間にか消えていた。
何だ!? 考えを読まれたのか?
俺はさっきよりも真剣に名前を考える羽目になった。自分しか呼ぶことの無い名前をなんでこんなに考えてるんだと不思議に思うがすぐにその考えを頭の片隅に追いやった。
・・・
よし決まった クラゲちゃん にしよう。
彼女、いやクラゲちゃんはちゃん付けがよほど気にいったのか相当ご満悦のようだ。名付けは無事に終わることができクラゲちゃんの真顔も消え去り、また前のように微笑んでいる。
名付けは終わり、心機一転さあ先に進もう!という感じに話が進めば楽なのだが特に現状は変わっていない。正直名前を付けてしまってさらに愛着が湧いてしまいもうクラゲちゃんを手に掛けることは心情的にできないだろう。
本格的にこの体がクラゲちゃんを始末する前にどうにかしなくては、だが暴れる以外に選択肢が思いつかない。これもこの体の影響か?疲れたようにクラゲちゃんを見ながら脱出のための手立てをまた一から考え始める。
はあ…… 頼むからここから出してくれないかな
瞬間自分の中のマナが動き出す。体を巡っていたマナを自分の意思ではなく無意識に操作して今さっき自分が思っていた思考にマナを乗せ目の前の存在、クラゲちゃんに向かって飛ばす。
明らかにスキルの兆候だ、体の周りに纏うことしかできなかったマナが体外に何らかの形で放出された。そして俺が飛ばしたマナをクラゲちゃんが一身に受ける。
攻撃してしまったか、と思ったが見た感じ攻撃した感じは無くクラゲちゃんは完全に放心している。攻撃でなくとも急に大量のマナを一身に受け思考が回らないらしい。
大丈夫かと思い慎重に優しくクラゲちゃんの肩辺りを揺すってみる。するとハッとしたようにこちらを見てくる。
俺はもしやと思いもう一度同じようなことを考えながら彼女の両肩をグッと掴み見つめる。
頼む!この空間から出してくれ!
俺の顔を見てられなくなったのかサッと顔を逸らし下唇を噛みながら暫く考えた後に俺を見つめ返してくる。
何だ?どうなったんだ?
なぜクラゲちゃんが見つめ返してくるのかわからず混乱していると辺りの異変に気付く、俺が寝ていた部屋の入り口の前にいた。
俺はあの膝枕された後部屋を出てから一歩も動いていなかったのだ、予想は正しく切り離された空間に閉じ込められその張本人もクラゲちゃんだった。
実は違うのではと思っていたのだが結果は見ての通り。この体の直感がかなり正確だということが分かったのは不幸中の幸いか、今後この直感は頼りにして行けることが分かった。
だが問題が無くなったわけでは無い、目の前には何の前触れもなく異空間に閉じ込めるというチート能力を持った存在が今だ目の前にいるということだ。
今後のことを考えるとここで即始末だが、俺には新しい力がある。
俺に、能力を、使うな!
相手の無意識に働きかけ思考を誘導するような、暗示スキルとでも言うべきか。
自分の考えているというか思いを相手に伝えそれを無意識に実行させるスキル。クラゲちゃんも考えたり迷っていたりする仕草があったからそこまで強制力は無いみたいだが正直超強力なスキルだ。
派手なスキルではないが有用だし、何より自由自在にスキルを使えることがこんなに楽しいことだとは思ってもみなかった。
俺は暗示スキルを彼女に使い能力を使うのに制限を掛ける。あくまで暗示なため暗示を振り払って能力を使ってくる可能性があるので素早くこの部屋を後にする。
ようやく先に進める。