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第一話

 闇。


 光が届かないこの場所で俺はいつまで呆けているつもりなんだ。自分でも今の状況をどうにかしないとと分かりつつもその場を動くことはない、ていうか動く気がない。


 ここが何処で自分に何が起きてるのか整理しきれていないからだ。いや、本当は心のどこかで何が起きたかはわかってきはている、が認めたくないだけかも。認めて次にこの場所はどこなのかと、この闇の中を突き進むのは自分のメンタル的に少し厳しい。もう何度かわからないため息をつく。


「フシュウウウウ」


 ため息をつくと自分の身に起きたことが現実だと教えてくれる。頭と体を動かし改めて自分の体を確認する。おかしなことに光の届かないこの場所でも俺の目は物を捉えることができる。


 眼前には見慣れない自分の手足が映っていた。見慣れないのに自分の四肢だと分かるのは、感覚的にというか自分で動かしてるからなんだが。


 自分の四肢を見て思うのは明らかに人のモノではないことだ、手足は大きく無骨な印象で血管なのか筋が浮いている、爪も伸びていて指先の延長のように突き出ている。それでいて拳を握りこんでも手のひらには爪の痕はつかない、この凶悪な爪で傷つかないのは並みの頑丈さではない。


 態勢を変え体の隅々までどうなっているか見ていると、人間にはついていないモノが視界に入る。


 尻尾だ。犬猫のようなかわいいモノではない、質感は毛や鱗ではなくゴツゴツとした骨にそのまま皮が張り付いてる感じだ。


 鏡などはないので全体を見れるわけではないが、ざっと見た感じ体毛や鱗などは生えてなく、皮と骨といった感じだ。手触り的にも毛や鱗の感触はなく石や金属みたいな感じだ、獣というよりは、、、エイリアンのような地球外生命体だ。


 この質感で肌を引っ張ったりできるのは不思議な感覚だ。なれないながらも体を起こしてみるとそのデカさが際立つ、体のバランス的に前かがみの姿勢に近いがそれでもかなり視線が高い。


 俺は化け物になってしまった。


 この場所に来てからどのくらいの時間がたったのかわからない。体は化け物で意識は人間、俺は今どちら側なのか、もしかしたらこのまま時間がたてば意識が化け物に寄って行って最終的に自分の意識が化け物になってしまうかもと、ありもしない仮説を立てて一人で怖くなる。


 そんなものを考えるならすぐに行動すればいいのだが、この化け物の体はそういった精神面は変えてはくれなかったらしい。


 このことから自分で立てた仮説は全くの見当違いなんだが、今の俺はそういったことを冷静に判断することはできそうにない。ただ自分がこの場所に()()()()()方向を見つめるしかなかった。


 なぜ落ちてきたのか、そんなことは考えるだけ無駄でしかなく人間の尺度では到底計り知れない超常の出来事でしかないのに、俺はその理由を考えるためにその日のことを思い出す。


 その日はごく普通の日だった。



 ・・・



 朝になりスマホのアラームが鳴る、相変わらず聞くだけで嫌になる音だがそれ以上に俺を起きようという気にさせる。気だるげに体を起こし鳴り響くアラームを止め朝の支度を始める。


 偶々つけたテレビから当たり障りのないいつものニュースが流れる、天気予報、交通事故、芸能人のあーだこーだ、そして、(ゲート)の出現情報だ。


 内容としてはどこぞの山中に門が開いたといったありきたりなものだ。この区域内に開いてくれれば自分たちにも恩恵があったのだが、開いた場所が遠すぎるので関係ない話だ。


 なぜ門の出現が自分に関係するのか、それは俺が通う高校は通常の教育機関ではなく門の調査員の育成も兼ねている学校だからだ。


 適当に朝食をとりシャワーを浴び歯を磨いて昨日のうちに準備していたスクールバックを肩にかけ寮を出る。何の変哲もない通学路を歩くこと約十分、俺の通う学校の校舎が見えてくる。


 一年生の時は、なれない寮生活にまわりは知らないやつだらけで心臓バクバクで登校していたのだが、二年生にもなるとそんなことはなくなっていた。


 俺がなぜこの学校に進学したかというと、特に将来やりたいことがあるわけではなかったからだ。俺はこの学校の進学のしやすさと卒業した後の条件に惹かれて受験した。この学校に進学するのは簡単だ、軽い面接と今までの素行が良ければ入学できてしまう。


 条件はいろいろとあるんだが、要は卒業後は門の調査員として働くということだ。正直、面倒な就職活動なんかをやらずに職に就けるのはやりたいことのない俺にとってありがたい話だった。


 だが、俺が親に調査員の学校に行くと言ったときは猛反対された。門の調査というのは少なからずリスクがあったからだ。そもそも門の出現という人知を超えた現象の更にその調査をするということに()()()()()なんて思うことがおこがましかったんだ。


 そして俺は両親の反対を押し切ってこの学校に進学した。こんなことになると分かっていれば親の言うことは聞くべきだったな、もう遅いが。


 学校について自分のクラスに行きそこまで親しくないが、話ができるくらいのクラスメイトに気の抜けた挨拶をして席に着く。そして朝のホームルームが始まるまではスマホを眺めながらすごして待っている。


 そうしてるうちにクラスメイトが続々と登校してくる。中にはぎりぎりで来るやつもいる。俺は学生寮に入っているから、学校まであっという間なのだがもう少しアラームの時間を遅くしてもいいかも、なんて思っていると。不意に俺に話しかけてくるやつがいる。


「ねぇ、あんた寮生のくせに早くから登校しすぎじゃない?」


 笑いながら話しかけてきたのは、俺の席の右斜め前の席に座る、このクラスに三人しかいない女子生徒の一人だった。髪は長く金髪でつやがあり日の光が当たり輝いて見える、制服から見えるすこし焼けた肌とこの屈託のない笑みが彼女無邪気さ表していた。


 あまり喋ったことない人物から話しかけられ、ほんの一瞬言葉に詰まるが何とか返事を返す。


「ああ、確かに俺でもそう思うんだけど。なれた時間を変えるのが怖いんだよね」


「うわ!なんかそれ分かるかも」


 何とか返した返事が思ったよりも反応が良く、内心ではピョンピョンと小躍りしながらガッツポーズしていた。数少ない女子生徒と楽しそうに話していると、まわりの哀れな男子生徒からそれなりの視線を送られるのだが話に夢中の俺は全く気付かない。


 そしてしばらく話していると彼女からとある提案をされる。


「よかったら今日の模擬戦はあたしとやんない?」


 え?、と言葉に出さなかった自分を褒めたい。それまで気にならなかった男子たちの視線から憐みの感情を感じる。


 門の調査は過酷だ、だが門の先に広がる世界というのは人類に多大な恩恵をもたらしていた。というのも門の先に広がる世界、通称 異世界 にはマナと呼ばれるエネルギーが存在していた。


 門がこの世界に開いてから約40年たち、マナの研究もそれなりに進みその有用性が明らかになっていた。その中でも最も注目を集めたのが、人類の進化ともいうべき現象だ。


 異世界にてマナはあらゆる物に宿っていて、目には見えないがそこらじゅうを漂っている。本来マナと関わることのなかった人間が異世界に行くとこのマナを吸収することができる。マナが宿った肉体は身体能力が大幅に上がり、怪我や病気になりにくくなり、なってもすぐに治ってしまう。さらに。


「ああ大丈夫大丈夫、スキルは使わないから」


 さらにこのマナは肉体の強化だけでなく、超常的な力を授けることがある。それはスキルやアビリティなどと呼ばれるもので、この学年に十人もいないのだが彼女はそんな稀有な力を授かった一人だ。スキルは簡単に言うと体内に宿っているマナを外に放出することだ。普段は体内を巡っていてマナが外に出ることはないのだが、スキルはそれを可能にする。


 たかが模擬戦に万が一スキルでも使われたら訓練にすらならない。


「い、いや~ 遠慮しとくよ今日は調子が悪くて」


 無理やり笑いながら答えてその場をしのぐ、せめて俺もスキルを授かってるかマナを彼女より吸収していれば誘いを受けれたのだが。そんなやり取りをしているうちにホームルームが始まり午前の時間が過ぎて午後の訓練が始まる。


 これが俺の日常だ、これから数時間後にあんなことになるとは誰もわからなかっただろう。この日に至るまでおかしなニュースや噂はなかった。予兆はなかった。

初投稿、なんでもござれ。

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