第8話:「心臓がうるさいだけで、別に好きとかじゃないから!!!たぶん!!」
土曜。
私のスケジュールは「絶対に誰にも会わない。特にルナに。」これ一択だった。
けど今――鏡に映る自分の顔は、やたら前髪を整えている。
「……いやいやいや、別に誰かと会う予定もないし!?なに!?なんで前髪で5分も悩んでんの!?!?」
しかも服、制服のブラウスに手が伸びてた。
「ちがうって。これはその……アイロンかけてたら手が勝手に……!」
(※何もかけてません)
心臓がバクバクしてる。
昨日の“まだよ”が、脳内でリピート再生されてるのが原因。きっとそれだけ。ただの循環器の誤作動。
近所のパン屋を歩いてたら.......
絶対会わない予定だったのに――
絶妙なタイミングで扉のベルが鳴る。
「ほのか?」
「うわっルナ!?なんで!?!?GPS!?思念波!?」
「“ここで出会う”って、ルート予定表に書いてあったの」
「どこの神の設計書読んでんのあんた!?私聞いてないよ!?!?!?」
でも断りきれず、隣に並んでパンを選ぶことに。
公園のベンチで並んでサンドイッチを食べながら、私は最大限自然に聞いてみた。
「ねぇ、昨日の“付き合ってるの?”のやつ、さ……」
「うん?」
「いや、その……別に、特別に意識したとかじゃないし?心臓がうるさいのも気圧のせいというか?あと糖分足りてないとかで……」
「……ふふ、かわいい」
「やめてぇぇぇぇ!!!そーゆー一言が一番しんどいやつなのおぉぉ!!!!」
駅まで歩く途中、ルナが言った。
「ねえ、ほのか」
「……なに?」
「もし、私がゲームの中のままだったら――今ごろ、誰かに攻略されて、別の誰かとエンディングを迎えてたと思う」
「……そっか」
「でもね、現実に来て、一番うれしかったのは……」
「“自分で誰を好きになるか、選べるようになったこと”なの」
> 【通知】
自覚進行度:98.5%
※あとひと押しで「本気の自覚イベント」発動可能
心臓が――止まりそうだった。
いや違う。跳ねてる。暴れてる。
なんでこんなに、苦しくなるの?
なんでこんなに、声がきれいに聞こえるの?
ねぇ――ルナの笑顔って、こんなに眩しかったっけ?
……やばい。
わたし、今……ほんとに……
……まさか……




