第6話:「気づけば手を繋ぐのが当たり前になってるのおかしくない!?」
朝。
靴箱で靴を履き替えていたその時、ふと妙な気配を感じた。
「……なんか、今日も誰かに見られてる気がする」
予想通りのタイミングで現れたのは、白鷺ルナ。
制服は完璧、髪さらさら、そして――なぜか指先がすでに差し出されている。
「おはよう、ほのか」
「うわっ、もう構えてる!!何その手!?手つなぎオート起動!?!?」
「朝のイベントは“手を繋いで登校”って決まってるのよ。ほのかルート仕様だから」
「私仕様で勝手に実装すんな!!!!」
だけど、反射的に私は――その手を取っていた。
「……うん。おはよう」
「今日も素直でえらいわね」
「ちがう!!あれは自動反応!!条件反射!!」
「つまりもう、“当たり前”になってきたってことね」
「慣れってこわい!!!!」
【AM10:15 2限・現代文の時間】
現代文の授業中。教科書を開くと、何かが挟まっていた。
【本日の親密度:96%】
あと4%で“特別友情デートイベント”が自動解放されます。
※逃げても発動します
「誰だこれ入れたのォォォォ!!」
「私よ」
ルナが隣でさらっと言った。口調が完全に“お弁当に手紙つけといた”テンション。
「なんで親密度可視化されてんの!?てか96って何!?思ってたより高すぎん!?」
「昨日の“ほのかの手を握り返してきた握力”で一気に+8入ったの」
「判定が繊細すぎるッ!!!!!」
昼休み。今日こそは一人でパンでも買って静かに食べようと思っていたのに――
私の席の隣には、すでに白いレースのテーブルクロスとバラの造花が並べられていた。
「……これ、何?」
「“ランチ親密度加速イベント(友情ver.)”よ」
「どこが友情!?なにそのレイアウト!?婚約記念日ですか!?!?」
「それより早く座って。今日は私、サンドイッチとスコーンを焼いてきたの」
「イギリスか!?!?!!」
そして、放課後。
今日こそ早く帰ろうと、私は一人で靴を履いていた。
すると、カバンの内ポケットからまたしても紙が落ちた。
【帰り道イベント:発動済み】
条件:手を繋いだ状態で15分間歩く
目標達成まで:あと14分52秒
「えっ、もう始まってんの!?」
「うん。私がカウント始めたから」
ルナはもう私の隣にいて、自然に手を繋いでいる。
「なにそのしれっと侵入!もう帰り道に組み込まれてるの!?」
二人で交差点を歩きながら、私はぽつりと言った。
「ねぇ、ルナ」
「なに?」
「……なんで、毎日こんなに“当たり前”みたいに、手繋いでんだろうね」
ルナは、少し黙ってから言った。
「ほのかが拒まないからよ?」
「……っ」
【通知】
現在の親密度:99.9%
あと0.1%、本人の自覚で“ルート確定イベント”発生予定。
心臓が――少しだけ、跳ねた気がした。