第3話:「なんで私なの!?って聞いたら、“あなたしかいなかったから”って言われた話」
昼休み。私は逃げた。
教室の窓際から廊下へとぶっ飛ばし、階段を下り、購買をスルーして屋上へ。
鍵が閉まってるかと思ったら、なぜか開いてた。
「誰だよ開けっ放し……!」
とか思ったら、影がスッと目の前に立った。
「追いついたわ」
「ホラーかお前は!!!!追いかけられてたって知らなかったんだけど!?」
「むしろ、逃げると思って待機してたのよ」
「ストーカー気質じゃん!!乙女ゲームのメモ機能使うなよ!!」
ルナは、太陽の下でも白くて綺麗だった。
いや今そういう感想いらない。大事なのは――
「なんで……私なの?」
「え?」
「この世界、いくらでも女の子いるじゃん。なんで……よりにもよって、こんなモブっぽい私なの?」
自分でも、ちょっと寂しげに言ってしまったのがわかった。
ルナは静かに近づいてきた。
少し間を置いて、目を合わせる。
そして――いつものように、笑っていなかった。
「最初は、名前だったの」
「名前?」
「あなたの名前、“相沢ほのか”っていうんでしょ」
「う、うん」
「私の世界で、**最後にログインしていたプレイヤーの名前が、それだったの」
「……!」
「もちろん、偶然かもしれない。でも――」
ルナは小さくこっちを指差す。
「あなたを見たとき、選択肢が出たの。」
> 【イベント発生】
白鷺ルナ「話しかけてみる?」
【選択肢】
・微笑んで返す(好感度+10)
・何も言わずうなずく(好感度+5)
・『ちょっと黙ってくれる?』(ルート確定)
「……あの瞬間、私の“ルート”が、もう動き始めてたの。ほのかにだけ、私の世界が繋がってたの」
静かに言われて、私はうまく言葉が出なかった。
ふざけた子だと思ってた。
冗談で恋愛ゲームのノリを引きずってきてると思ってた。
でも――今のこの目だけは、本気だ。
「私は……あなたに選ばれたくて、ここに来たの。だから、逃げないで。私はもう、あなたのルートから、抜けられないの」
やめてよ、そんなふうに言われたら。
まるで私が、
この子を選ばなければいけないみたいじゃん。
「……じゃあさ」
「うん?」
「この世界の私と、“ゲームの世界の私”って、同じに見える?」
ルナはふっと微笑んで言った。
「全然違うわ。でも――今のほのかの方が、ずっと好きよ?」
「えっ、ちょ、何その急接近イベント!!??!スチル入るとこだったよ今!!」
この日から、
私は少しずつ、白鷺ルナを“攻略”するんじゃなく、
攻略されていく側になっていった。