第2話:「仲良くする気ゼロなのに、なぜかルートが進行中です」
休み時間。
教室はいつも通りのざわざわ空間――になるはずだった。
でも今日だけは違った。
「白鷺ルナ様が……隣の席に……!」
「見て、ちょっと笑っただけで後光が差してる……」
「しかも、あの無個性モブ女子の横に座ってるんだけど……」
無個性モブ女子って私のことだよね!?
いや事実だけどさ!! でも言い方ァ!!
そして隣に座るルナは、朝から変わらず涼しい顔。
「ねえ、主人公さん」
「だから主人公じゃねぇって何度も!!」
「クラスメイトの名前、把握しておきたいから教えてくれる?」
「え、それ私がやるの!?先生じゃなくて!?」
「先生は“ルナ様の邪魔になるようなら席替え検討”とか言ってたわ」
「どんなパワーバランスだこの世界!?」
でも、やるしかない。下手に逆らったらまた変な選択肢ウィンドウが出るに決まってる。
> 【イベント発生】
クラスメイトの紹介を手伝おう
【選択肢】
・普通に紹介する
・ルナと手を繋ぎながら紹介する(好感度+10)
・名前は……うん、忘れた(修羅場フラグ)
手を繋ぎながら紹介って何!?この世界どんだけ乙女ゲームに毒されてるの!?
私の頭が爆発しそうになっていると、ルナが自然な仕草でノートを開いた。
「さっきの子、髪にカラフルな飴が3本刺さってたわ。名前は……」
「三条ミチル。将来はキャンディアートで世界進出狙ってる」
「ふむ、いいサブキャラね。ヒロイン候補ではない」
「おい、キャスティングすな!!」
ルナは一人ひとりに丁寧に視線を向けて、攻略候補かどうかを真面目にジャッジしはじめた。
「スタイル良し、髪型キマってる、主人公より優しそう……でも、“私を好きになる顔”じゃないわね」
「評価ポイントが意味不明すぎる!!」
「あなたは違うわよ、もちろん」
「……うん、褒められてる気がしない……」
そんなこんなで5限目。
保健の授業という名の実質自由時間がやってきた。
案の定、ルナはすっと隣の椅子を引いてきて私の真横に座る。
「おい」
「座るわ」
「そこ、三条の席だよ」
「譲ってもらったわ。“百合の波動を感じたのでどうぞ”って」
「ミチル!?!?百合波動ってなに!?キャンディーじゃなくて波動を感じてるの!?!?」
教室の端でミチルが親指を立てていた。
**「幸せになれよ……!」って顔してる。何に納得してんの!?あんた!!
そして授業中。先生が離席した瞬間、ルナがノートに何かを書いて、私のノートにスッと滑らせてきた。
《ねぇ、キスって、どこからがイベント扱い?》
「やめろ!!!!授業中にイベントフラグ立てるな!!!!」
> 【イベント発生】
> 『あなたの答えでルートが変わります』
> ・口以外ならセーフ
> ・夢ならセーフ
> ・やめろ(好感度+3)
「このゲーム、絶対バグってるよな……」
小声でぼやくと、ルナがにこっと笑って言った。
「ねぇ、“ルート”って、バグってるくらいが面白いんじゃない?」
「いや、そういうの求めてないから!!私ただの一般人生送りたいだけだから!!」
こうして私は、仲良くなる気ゼロなのに
次々とルナの「百合イベント」に巻き込まれていく。
誰も彼女のペースを止められない。
――そう、このルートは、すでに“選択不能”状態だった。