表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/32

愚かなる者たち、ゴルゴダ

 落合恵おちあいめぐ神楽坂弥生かぐらざかやよいに続き、なんと今度はアリッサ・セントメリーが拉致されてしまった。

 

 私のスマホに「喜屋武宇宙きゃんそらが来なければお前の部の金髪女を輪姦まわす」という、いたってシンプルなメッセージが届いた。差出人は「ゴルゴダ」、なんともキリスト教っぽいネーミングだが、実はこの辺りではちょっと名の知れた不良グループだ。今まで相手にしていたチンピラ高校生風情とは訳が違う。


 そのゴルゴダが指定してきた場所は、彼らが拠点としているらしい、神奈川県側の多摩川べりの工場跡地だった。

 宇宙そらくんは危ないから自分一人で行くと言い張ったが、私と弥生やよいは強く同行を主張、宇宙そらくんもとうとう折れて、私たちは三人で敵の本拠地に出向くこととなった。


 そこは、どの鉄道の駅からも離れた、古い準工業地帯と思しき廃ビルやシャッターの降りたビルが目立つ地域だった。壁やシャッターには卑猥なスプレー書きがやたらと描かれ、街の雰囲気をさらにすさんだものにしていた。

 不思議なくらいに人通りも、車の行き来もない。私たちは、まるでゴーストタウンに迷いこんでしまったかのようだ。

 

 住所を頼りにようやく指定の場所にたどりつき、少しだけ空いていたシャッターをくぐって中に入った。

 そこは、バレーボールのコートほどの広さの廃工場だった。

 

 廃工場の中は、閑散とした街の雰囲気とは対照的に濃密な人の気配があった。その空間は煙草の臭いと男たちの下卑た笑い声に満ちていた。

 

 我々三人の姿を認めると一斉に怒号が上がった。

 広くないスペースには三十人くらいの男と、数人の女性がひしめいていた。腕に刺青タトゥーをびっしりとした男や、どぎつい色に髪を染めた男女に交じって、河川敷で私や宇宙そらくんに叩きのめされた奴らも見かけられた。なるほど、どうやらあいつらが手引きをしたらしい。


「ねえ。こういうところ、趣味じゃないんだけど」と私が言うと、緊張した面持ちの弥生やよいが無言で頷いた。


 そして、その廃工場の一番奥の一角に、ピンクや紫に髪を染めた女数人に囲まれて、なんとアリッサは全裸で十字架にはりつけにされ、そのパイパ…ハイジニーナ処理をされた豊満な裸体を曝していた。


 ゴルゴダだけにはりつけってか。この腐れ外道どもが! ふざけるんじゃねーぞ!

 私の中の怒りが瞬時に沸騰点に達した。

 

 一方で、この人数と乱闘になるのはまずいとも思った。勇気を振り絞って、私は相手を挑発した。


 「ねえ、一番強い者同士の一対一タイマンで決着をつけない?」

 

 相手側から一斉に怒号があがる。

「なんだ、コラァ、調子こいてんじゃねーぞ!」

 

 動じずに私は言い返した。

「それとも総がかりじゃないと喜屋武きゃんくんに敵わないってことかな。それでも構わないけど、そちらに無駄なけが人が出るだけと思うけど」

 

 集団の中から、首に刺青タトゥーを入れた、身長185センチ、体重はゆうに100キロ以上ありそうな大男がのっそりと姿を現した。

「いいぜ、相手になってやるよ」


「うぉーっ!」

 不良グループどもから地響きのような歓声があがった。

「総長、やっちゃってください」

「殺せ!殺せ!殺せ!」

 どうやら自分たちのボスが負けるとは微塵も思っていない様子だ。


「ゴルゴダの総長、蔵王権太郎とは俺のことだ」


「蔵王だか何だか知らないけど、喜屋武きゃんくんが勝ったら、直ちに部下どもを解散させ、アリッサをこちらに返してもらうわよ」と念を押す私を蔵王が鼻で笑った。


「こいつをぶちのめした後、パイパンの金髪だけじゃなくて、お前と、そっちの女も俺らでかわいがってやるぜ。やりまくってその動画をネットに上げるけど、顔くらいはモザイクかけてやるから安心しな」


 こいつ、どこまで下種げすなんだ。

 こいつが宇宙そらくんと同じヒューマノイドで、もし彼が負けたら、と思うと全身に鳥肌が立った。宇宙そらくんは一人で行くと言ってくれたのに、のこのことついてきて…と今更思ったところで後の祭りだ。


「お願い、宇宙そらくん、頑張って」

 私たちは祈るような気持ちで二人の勝負の行方を見守った。

 



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ