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歴史部と河川敷の乱闘

 歴史部の活動日は月、木の週二日のみだ。宇宙そらくんは私が彼の部屋を訪れたその翌週の月曜日に入部届を持って部室に現れた。


 歴史部は、運動部に比べて地味な文化部の中でもとりわけ存在感の希薄な部である。伝統だけはあるらしいが、なにせ現在の部員は私を含めて三名、空手道場の片手間に入部した私が部長なのだから、その活動の実態たるや推して知るべしである。

 週二日の活動日も、特にやることが決まっているわけではない。年一回部誌を発行して、文化祭で申し訳程度の発表をする以外は、部室に集まってにおしゃべりをしたり、ボードゲームに興じたりしているのが実態だ。

 

 私以外の部員は、私と同じ二年生の神楽坂弥生かぐらざかやよいと一年生の落合恵おちあいめぐの二人、女子ばかりの部に評判の男子が入部するということで、二人はがぜん色めき立った。

 運動神経抜群で運動部が争奪戦を繰り広げている噂の転校生が我が歴史部に入部なんて、どう考えても不自然極まりないが、二人にはそんなことを気にする様子もなく盛り上がっている。


 彼の自己紹介が終わり、早速四人で人生ゲームをやっていると、一年生のめぐちゃんが時計を気にしだした。


「実は、今朝、電車の中で、他校の男子にラブレター貰っちゃったんです」

 なんでもお相手が四時に多摩川の河川敷で待っているとのことで、いそいそと部活を早退していった。

 人数が一人減ってしまったのでゲームは終了、神楽坂さんも帰宅した。さて、取り急ぎ話すこともないので、それでは我々もぼちぼち帰りますかと席を立ったところで、私のスマホにメッセージが入った。


「おたくの部員を預かった。助けたければ河川敷に来い」


「なに、これ?」

 私は宇宙そらくんにメッセージを見せた。


「巻き込んでしまったかもしれない」

 いつもの無表情で発した彼のただならぬ一言に、私たちは、指定された京王線のガード下の多摩川の河川敷に押っ取り刀で駆け付けた。


 堤防上の道を走り、河川敷の所定の場所に駆け降りると、はたして落合恵おちあいめぐは柄の悪そうな男五人に囲まれていた。制服からして近くの工業高校の生徒のようだ。


「良く来たな、褒めてやるよ」

 

 リーダーと思しき金髪のソフトモヒカンが私たちの方に近づいてきた。

 先手必勝、私は一歩踏み込むと男の金的にすかさず前蹴りを入れた。たまらず男が股間を抱えて悶絶する。


「てめえ、いきなりなにしやがるんだ、乱暴な女だな!」

 女性を拉致して脅してくるような奴らに乱暴者呼ばわりされる筋合いはない。手加減は無用、私は、怒りを露わに向かってこようとする男たちにファイティングポーズをとった。

 

 ところが、そこから先は私の出る幕などなかった。

 私の前に踏み込んだ宇宙そらくんが左ジャブを一閃させると、相手は大きく首をのけぞらせ、そのまま鼻血を吹いて後ろ向きに倒れた。

 金属バットを振りかざして向かってきた相手のみぞおちに右のボディアッパーが炸裂すると、男は身体をくの字に曲げて胃液を吐いて昏倒、残りの二人も横蹴りと顔面への裏拳であっけなく地面に沈んだ。文字通り、まさに瞬殺だ。


「こいつら、ひょっとして、宇宙そらくんが言うところの対抗勢力ってやつ?」

 

 うめき声をあげながら地面に転がるチンピラどもを見下ろしながら宇宙そらくんが答えた。

「ヒューマノイドがこんなに弱いわけはない。ただのチンピラ高校生。でも、対抗勢力に操られた可能性は否定できない」


宇宙そらくんが歴史部に入部したことなんてほとんど誰も知らないのに、歴史部の部員を囮にするなんて、そうだとしたら情報が漏れるのが早すぎるよ」

「近くに対抗勢力の内通者がいる可能性は否定できない」


 我々の心配をよそに、落合恵は眼をハート型にして、宇宙そらくんに抱き着いていた。


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