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アリッサの独白

 私たち三人は、ううん、一人とヒューマノイド二体と言った方が正確かな、ともかく喜屋武きゃんくんの計画通りタイムリープしたわ。

 多摩川の河川敷で、喜屋武きゃんくんはすかさず例の円筒状の装置を使って安田二号の機能停止プログラムを起動させた。

 さすが宇宙人製のプログラムよね、割とあっさりと安田二号を機能停止させることができて、この件は一件落着。


 私たちがリープしたのは西暦で言えば666年、朝鮮半島では当時の日本と親密だった百済くだら新羅しらぎとう連合軍によって滅亡させられ、日本にたくさんの戦争難民がやっていてきていたの。

 そのうちの一部がここ、多摩川の中流域に入植して、開拓を始めたところだった。


 現代に帰る手段を持たない私たちは、彼らから見れば卓越した体力と知識を持ち合わせていたから、彼らの集落に快く迎え入れられた。そして、喜屋武きゃんくんが、自然の成り行きとして集落のおさになるのに、それほど時間はかからなかったわ。


 最初はちょっとホームシックにもなったけど、でも、あの地での生活は悪くなかった。ううん、はっきり楽しかったって言えるわ。

 喜屋武きゃんくんの力で開拓民たちの暮らしは眼に見えて改善されていった。日増しに人間っぽくなっていった彼は、周辺の集落との交渉事もまとめて、やがてこの辺り一帯の王と呼ばれるようになった の。

 私はなんと王妃様よ。私は彼と二人ならこのままここで一生を終えても悔いはない、そう思っていた。


 でも、そんな充実した日々は長くは続かなかった。

 喜屋武くんがわずか5年ほどで機能停止してしまったの。「僕は瞬発力に極ぶりされて生成されているから寿命は短いんだ」って、いつも自分で言ってたけど、本当にその通りになってしまった。

 あの時はとにかく悲しくって、悲しくって、三日三晩泣き続けたわ。


 喜屋武くんは、開拓民たちにとっても慕われていたから、周囲の集落が共同して大きな古墳が作られ、そこに埋葬されることになったの。

 その時、この古墳は、夏休みに調査をした弥生の実家の下にあったものだって気が付いたの。この古墳に埋葬されれば、あなたたちに気が付いてもらえるかもしれないって、そう思った。


 元より喜屋武きゃんくんのいない世界で一人で生きていく気力は私にはなかった。

 私は夫といっしょに生きながら埋葬してほしいと開拓民たちに必死に訴えた。現代に戻れたら嬉しいけど、そのまま彼のそばで眠り続けることになっても、それはそれでいいと思った。

 

 もちろん、当時は卑弥呼の時代と違って、殉死、殉葬はもう行われていなかった。集落のみんなにはこぞって反対されたし、隣の集落のおさからは熱心なプロポーズも受けたりしたのよ。

 

 でも、私の決意が固い事を知って、とうとうみんな諦めて、この時空凍結装置に収まった私を、喜屋武きゃんくんの隣に埋葬してくれたの。


「私だけ生き残って、喜屋武きゃんくんは土に還ってしまった」

 すべてを語り終えたアリッサは顔を覆って泣き出してしまった。



 私は、そんなアリッサが心底しんそこ羨ましかった。妬ましいほどに。


「アリッサと宇宙そらくんは夫婦だったんだよね」

 私は嫉妬しっとこらえて言葉を絞り出した。


「ん-、そうだね。同じ家、同じ部屋で寝起きしてたしね、周囲は確実にそう思っていた。私も、特にプロポーズされたわけではないけど、その気になっていたかな」


 同じ部屋で寝起き…私はどうしても聞かずにはいられなかった。


「二人は、実質的にも夫婦だったの? その、宇宙そらくんと、夫婦の営みとか、そういうことはしてたのかな?」


「あの時代の人たちって、お祭りとかで、その気になると、人前でも平気で始めちゃうんだよ」

 苦笑いをしながらアリッサが告白した。

「それを見て、私もついもよおしちゃってさ、『私たちもしようよ』って、何度か彼を誘ってみたんだよ」

「…」

「でも、一緒に寝ていても、とうとう最後までしてくれたことはなかったかな。二年三組で一番立派なものを持ってたくせにね」


 そうか、やっぱり、ヒューマノイドには恋愛感情や生殖能力はなかったんだね。


「ん、姫乃ひめの、それは違うかもよ」

「え?」

「私じゃなくて、姫乃とだったらしてたかもね。喜屋武きゃんくんはね、きっと姫乃ひめののことが好きだったんだよ」


 たまらず私の目から涙が溢れ、漏れる嗚咽おえつを止めることができなかった。

 

 宇宙そらくんとはしなかったというのも、彼が私のことを好きでみさおを立てていたというのも、アリッサの優しい嘘かもしれない。

 でも、私は宇宙そらくんが好きだった。そして宇宙そらくんも。1500年の時空を超えて、私たちの心はつながっていたと、せめてそう思いたい。


 私はアリッサの胸に顔を埋めて、ただただ泣き続けた。

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