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早朝の轢き逃げ事件?

 実家が空手道場をやっている関係で、私、久我姫乃くがひめのは幼い頃から道場で父に空手の指導を受けていた。

 高校生になっても、活動が緩いという理由で歴史部に名前を連ね、週に四日は父の道場で空手の稽古を続けていた。

 

 女子高校生らしからぬ武闘派の私は、基礎体力をつけるために、朝は自宅の近くの多摩川の堤防上の道をジョギングするのを日課としていた。

 ある朝、私がいつものようにジョギングしていると、堤防の下の車道を喜屋武きゃんくんが歩いているのを見つけた。

 舗道のない片側一車線の道路をこちらに向かって歩いてくる。私は、彼に向かって、私は大きな声で手を振った。


「おーい、喜屋武きゃんくん」

 彼が気が付いて、私に小さな会釈を返したので、私は堤防から下りて、彼の元に駆け寄った。


「こんな朝早くからどこへ行くの?」

「コンビニ、朝食を買いに」

 

 え、家族の人は朝ごはんを作ってくれないの?と思ったが、家庭の事情があるのかもしれない。それは触れずにおき、別の話題を振ってみた。


「運動神経、すごいんだね」

「あれは失敗。加減が分からなかった」


「え、どういうこと?」と思った瞬間、いきなり彼に路肩に突き飛ばされ、不意を突かれた私は路面にしたたかに身体を打ちつけた。


「何をするの、喜屋武きゃんくん!」と思ったところで、「ドン!」とすごい音がした。

 喜屋武きゃんくんが私を突き飛ばしたのは、私の背後から暴走してきた車から私を助けるためだったんだと思い至った。


 そして喜屋武きゃんくんは… 事故の瞬間は目撃してはいないが、あの音からしてそのまま車に撥ねられてしまったに違いない。


 私は身体の痛みをこらえながら、なんとか立ち上がった。

 喜屋武きゃんくんを轢いたと思しき車の姿はなかった。ブレーキ音も聞こえなかったので、わき見運転なのか、それとも故意なのか、いずれにしても車は喜屋武きゃんくんを轢いた後、躊躇うことなく現場から逃走したのだろう。これは轢き逃げ事件だ。


喜屋武きゃんくん、大丈夫!?」

 私は路上に倒れているはずの彼の元に駆け寄ろうとした、が、不思議なことに彼の姿もどこにもなかった。

 

 三十分くらい彼の名を呼びながら辺りを探索したが、とうとう彼の姿を発見することができなかった私は、狐につままれたような気分で家に戻った。


 学校へ行くと、案の定彼は登校していなかった。

 彼の安否を思うと気が気でなくて、授業にも集中できなかった私は、早速休み時間に安田先生を職員室に訪ねた。


「ああ、喜屋武きゃんのことか。今朝、本人から『体調が悪いので休ませてください』って電話があったよ」

 無事だったんだと、とりあえずほっと胸をなでおろした。


 学校を休んだ喜屋武きゃんくんの様子を見に行きたいので住所を教えてくださいとお願いすると、先生は、「そうか、そうか、青春だな」とにやにやしながら住所を教えてくれた。どうやら完全に勘違いされてしまったようだ。


 放課後、教えてもらった住所に向かった。それは今朝がたの事故現場からもほど近い、川沿いの豪華マンションのものだった。


「はい」

 オートロックの玄関で部屋番を入力すると、彼本人の声で返事があった。

「あ、私、久我だけど、喜屋武きゃんくん、大丈夫なの?」


 しばしの沈黙の後、彼から返答があった。

「うん、そのことで説明したいことがある。部屋まで来てくれるかな」


 エレベーターで指定の階に上がり、チャイムを鳴らすと彼本人がドアを開けてくれた。


「ああ、よかった、てっきり、昨日は私をかばって轢き逃げされたと思って」


「轢き逃げなら、された」

 思いがけない彼の返事に、私は絶句するしかなかった。


「長くなるから、とりあえず中に入って」


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