Show the Flag
歴史部の顧問の京橋先生が噂の白金先生を伴って入室してきた。
京橋先生は定年間近のおじいさん先生で、特に何をしてくれるでもない、名ばかりの顧問だ。それを言ってしまうと、私たち歴史部も、特に活動をしていない名ばかりの部なので、お互い様だけど。
「あ、いや、歴史部の顧問を新任の白金先生と交代させてもらおうかと思ってね」
突然の先生の申し出に私たちが驚いていると、白金先生が一歩前に出て経緯を説明した。
「実は、私、この部のOGなんだ。だから、先生に『歴史部の顧問をさせていただけないか』とお願いしたの」
京橋先生としても渡りに船だったのだろう。
「じゃ、そういうことだから。白金先生、あとはよろしくお願いします」と言って、そそくさと退出してしまった。
なんと疑惑の新任教師が自らおいでなすった。アリッサがいきなり「入部したい」と言ってきた時と印象が被る。何か腹に一物あるに違いない。
この人はホントにOGなのだろうか、私は鎌をかけてみた。
「昔の歴史部ってどんな活動をしていたんですか」
「うーん、特に活動らしいことはしてなかったかな。年に一回の部誌と文化祭の発表くらいかな」
「えー、観てみたい。当時の部誌、まだ持ってらっしゃいますか?」
「個人で持ってたものはとっくに失くしちゃったよ。あ、でも、部室とか探せば、まだあるかもね」
「当時の顧問は誰だったんですか」「部員は何人くらい?」
矢継ぎ早の私の質問に、明言を避けながら卒なく返答する白金先生が、切り返して質問してきた。
「ところでさ、私の前任の担任ってどんな人だった?」
「安田先生のことですか。先生がうちの高校にいらっしゃる時にもう赴任されてたはずなので、ご存じなんじゃないですか」
「ん-、私文系志望だったから、直接彼の物理の授業を受けたわけではないし、ほとんど接点がなかったからなー。だからどんな担任っぷりだったか、参考までに聞いてみただけだよ」
まさか、実は地球人コンタクト用のヒューマノイドで、私を殺そうとして、この宇宙くんに破壊されましたとは言えないし。可もなく不可もなく、普通に良い先生だったとだけ答えておいた。
「あなたたちと行った山の家から突然いなくなっちゃったんだよね」
ちらと宇宙くんの方を見たが、彼も無言を貫くみたいだったので、私も「私たちが肝試しををやっている間に山の家からいなくなってしまったのでよくわからない」と言葉を濁しておいた。
「まあ、いいや、細かいことはおいおい聞かせてよ」
こっちからも球を投げてみた。
「先生、先生は蔵王権太郎くんって覚えてらっしゃいますか」
「ん-、誰だっけな。名前だけは聞いたことがあるような、ないような」
この先生、なんか隠し事をしているような気がする。現段階では敵か味方か判別がつかない。
その後は申し訳程度に文化祭の発表の話をして、この日の部活は解散となった。
別れ際に、アリッサが誰に話すとでもなく小さな声で言った。
「Show the Flag」
白金先生がかすかに反応したような気がした。