担任代行
さてさて、今日は九月一日である。
長かったようなそれでいて短かったような波乱万丈の夏休みが終わり、今日から二学期が始まった。
退屈な始業式が終わり、ぞろぞろと我が二年三組の生徒たちが講堂から教室に戻ったところで、白いブラウスにグレーのスーツ姿のかわいい系の女子が教壇に姿を現した。
あれ、また転校生? でも、それにしては制服を着ていないよね。
「安田先生がお休みの間、このクラスの担任代行をさせていただきます、白金唯です」
先生だった!
「うっそ、先生かよ」という遠慮のない男子のことばに、白金先生は気分を害した様子もなく、気さくに応えた。
「昨年大学を卒業したばかりの23歳、皆さんとあまり歳は変わらないよ。それにさ、私、この学園の卒業生なんだよ。他に何か質問はある? 聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてねっ」
本人に対する質問に先んじて、山の家から突然失踪した安田先生を気遣う声が上がった。正体を知らないクラスメートにとっては、フレンドリーな良い先生だったから、そういう質問が出るのも無理はない。
「重病って聞いたけど、どうなんですか」
「お見舞いには行けるんですか」
「それがさ、病名も、入院先も、誰も知らないんだよね。校長先生も、教頭先生も知らないんだって。妙な話だよね」
砕けたことばで率直に思ったことを口にする、この先生、ちょっと裏表がなさすぎるのでは。
「山の家で具合が悪くなって救急搬送されたって聞いたからさ、あなたたち、その場にいたんだよね。あなたたちこそ、なんか知らないの」
安田の精神感応で操られていたクラスメートたちは、あの晩のことを何も覚えていないようで、皆、しきりに首をひねっている。
「安田が戻ってきたら、その、白金先生は辞めちゃうんですか」
「うーん、高校教師の口ってなかなか空きがなくって、昨年一年間就職浪人してたんだよね。せっかく母校に戻って来れたんだもの。副担任とかで残れたらいいんだけどな。でもまあ、そゆことはまたそん時ってことで」
放課後、部室に、私、宇宙くん、アリッサ、弥生の四人で集まって、朝のホームルームのことについて話をした。
「白金先生、安田先生、復職の予定があるみたいに言ってたけど、,宇宙くん、その、安田のこと、再起不能にしちゃったんだよね」
「そう。でも、酷似したものを再生成することは可能」
「ところで宇宙くん、あの白金先生は普通の人間なの?」
「平均的な地球人女子に比べ筋組織は発達している。スポーツ等身体的な鍛錬を行っていた形跡。でも特殊技能があるようには思えない」
こやつ、早速透視能力で先生の裸を確認したらしい、自分で聞いておいて、なんか腹が立つ。
「この学園の卒業生って言ってたよね。それなら蔵王くんと重なってるんじゃない。それに安田先生とも」とアリッサ。
確かに、年齢から行けば、安田が新任教師の頃、白金先生が三年生、蔵王権太郎が一年生だったことがあるはずだ。
そんな話をしていた最中に、部室のドアがノックされた。
「ちょっと、いいかな」
噂をすれば影、歴史部の顧問の京橋先生が白金先生を伴って入室してきた。