幕間:ヒューマノイド vs ヒューマノイド
喜屋武宇宙は、姫乃たちが襲われた場所で空間のゆがみを観測した。ちょうど、安田が結界を解き、姿を現したところだった。
安田に向かって喜屋武が全力で飛び蹴りを食らわせると、安田は10メートルほど吹き飛んで木の幹に激突した。
「いてて、いきなり教師を蹴り飛ばすなんて、乱暴な奴だな」
安田が少し引きつっていたにやにや笑いを浮かべて立ち上がった。
「そういえばアリッサは時間航行者だったな。まさか久我を連れてタイムワープできるとは思わなかった。失敗しちまったぜ」
喜屋武がファイティングポーズを取ると、安田が両手を小さく上にあげて降参のポーズを取った。
「俺は頭脳派だからな、腕っぷしではお前にはとてもかなわない。それより、クラス全員に指令を出したぜ。アリッサと久我を袋叩きにしろってな。俺なんか放っておいて、そっちを助けに行かなくてもいいのか」
行ったところで、クラスメートをヒューマノイドの力でぶっ飛ばすわけにはいかない。それに安田を機能停止させれば、クラスメートにかかった術式は解除できる。
「行かない。姫乃ならきっと自分で何とかする」
対峙する二人を安田の結界が囲んだ。
「それならば、奴らが姫乃とアリッサを殺すまで、お前をここに閉じ込めておくさ。俺には自爆装置がついている。二人の死が確認できたら、お前も俺と道連れでジ・エンドさ」
結界全体が安田のチェシャ猫のようなにやにや笑いで満たされ、繰り出される安田のパンチに、なすすべなく喜屋武が殴り倒される。
「おい、どうした。諦めたのか。さすがに俺様特製の結界の中では、お前も無力ってか?」
数分後、サンドバックのように殴られ続けた喜屋武がつぶやいた。
「解析終了」
「終了するのは、喜屋武、お前の方だぜ」
と言ったその瞬間、二人を覆っていた結界が霧となって消えた。
「なっ!」
「解除プログラムを作動させた」
「なるほど、そんなことを。道理で、俺に殴られっぱなしだったわけだ。暴力専門かと思ったら、意外といろんなことができるんだな。俺の上位互換機種ってところか」
そうつぶやくと自爆装置を起動させた安田を、一瞬早く喜屋武の結界が包み込んだ。
結界の中で何かが爆ぜるくぐもった音がした。