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あからさまな警告、あるいは最後通牒

 弥生の神社でのとんでもないオーパーツの発見で没になった文化祭の発表テーマを決め直すべく、私たち歴史部は部室に集合した。

 夏休みに入り、グラウンドや体育館では運動部の掛け声が響いるものの、文化部の部室棟は閑散としていた。

 太陽にも夏休みを取ってほしいくらいのうんざりするほど暑い夏の日に、部員の士気は全く上がっていない。無理もない、私自身が絶賛やる気減退中、涼しい顔をしているのは宇宙そらくんだけだ。彼にはなんか体温調整機能的なものが備わっているのだろう。


 事情を知らないメグちゃんが「えー、決め直しって、なんですかー」と机に突っ伏す中、おもむろに宇宙そらくんが椅子を倒す勢いで立ち上がった。


「位相が変化している」

 え、何のことと彼の顔を見る。いつもの無表情だが、冗談を言うようなキャラではない。きっとなにかよからぬことが進行中なのだろう。


「出た方がいい」

 彼に言われるまま部室から出ようとしたが、扉がびくともしない。なるほど、これは緊急事態だ。


「手遅れ。異空間に閉じ込められた」「この空間は支配されている。注意」

 彼のことばに否応なしに緊張感が漂い、部室を静寂が支配した。


 静寂はメグちゃんの悲鳴で破られた。

「きゃーっ」

 彼女の指差す先に出現した強敵に我々はパニックに陥った。


 出現したのは、あのこげ茶色にテカるにくい奴だった。

 体長5センチほどのゴキブリが部屋の隅でカサコソ動いている。


宇宙そらくん、あれ!」

 私のことばに彼が立ち上がったところで、さらに、信じられない、恐ろしい事が起こった。

 あのにくいゴキちゃんが、あろうことかだんだん大きくなっていく。その体長は間もなく30センチほどになった。

 

 巨大化して顔の細部まで観察可能となった奴の姿は、言いようもなく不気味で、部室は阿鼻叫喚の地獄と化した。


「早く、宇宙そらくん、何とかして、早く!」

 ところが、唯一頼りになりそうな彼は「ギャー!」悲鳴を上げながらしがみつくメグちゃんによって、完全にその戦闘能力を封じられていた。


 ようやく私と弥生で必死でしがみつくメグちゃんを彼から引きはがした。

 彼はペンケースから10センチほどのカッターナイフを取り出し、カチカチと歯を出しすと、それは彼の手の中で1メートルくらいの大きさに変化した。


 狙いを定めて振り下ろした巨大化したカッターは、見事巨大化したゴキの胴体を貫いて、その体を部室の壁にはりつけにした。


 約二億年前、古生代ペルム紀からこの地球に存在した昆虫の生命力は半端ない。体を貫かれ自由を奪われても、なおかつ手足をばたつかせるその姿は不気味そのものだった。


 どこにあったのか、弥生がスプレー式の殺虫剤を持ち出し、うごめくゴキめがけて噴霧を続けると、ようやく手足を縮めてご臨終になった。


 やがて、ゴキちゃんは体を刺しぬいたカッターともども従来の大きさに戻り、宇宙そらくんによってティッシュで包まれ、ごみ箱行きとなった。


「部室が異空間閉鎖から解除された」と宇宙そらくん。部室の扉も普通に開閉できるようになっていた。


「今の、何だったんですかー」とメグちゃん泣きべそをかいている。


 「我々に対するあからさまな警告」と宇宙そらくん。

 いつの間にかアジトと化していた我が部室に対する直接の陽動作戦は、大阪冬の陣の家康の大砲よろしく、大いにわが軍の士気をくじいた。

 

 これは「こんなこともできるんだぞ」というあからさまな警告、あるいは最後通牒か。

 否応なしに決戦の時は近づいている。そう考えざるを得ない状況に、我々は置かれていた。


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