稲荷神社のオーパーツ
オーパーツ(OOPARTS):その時代の文明や技術では説明できない、時代や場所にそぐわない出土品。
我々歴史部も学校の部活である限りはそれなりの活動をしなければならない。
期末テストも終わり夏休みを間近に控えた、特に何もやることのない気怠い初夏の日の放課後、我々歴史部は秋の文化祭の発表の打合せに部室に参集した。
「まずは何をやるか、誰か意見はあるかな」
私は暑さにぐったりしてやる気のなさそうな部員たちに声をかけた。
「楽にできそうなのが良いですよね」とメグちゃんが一年生の分際で緩い発言をしたが、皆それに異存はないみたいだ。
「それなら私の実家の神社の歴史を調べてみるってどう? うち、この地域の鎮守様だし、古い資料もいろいろあると思うけど」
安易な神楽坂弥生の提案に積極的に異議を唱える者はおらず、文化祭のテーマはあっさり決定、夏休み早々に弥生の神社に集合することとなった。
初めて訪れた弥生の家の稲荷神社は、学校から徒歩で15分ほどの周囲から少し小高くなった丘の上にあった。
神社に着くなり宇宙くんが首をかしげ、熱心に神社の鳥観図を作成し始めた。
アリッサはアリッサで「ここらには、何かあると思っていたのよね」と、いろいろな器械を地面に並べ、パソコンを操作して画像をチェックしている。
予想外の展開に、私と弥生は神社にあった古文書をぱらぱらめくりながら彼らの様子を観察し、手持無沙汰のメグちゃんは一人境内にいた猫と遊んでいた。
「やはり、思った通りだ」
どうやって作ったのか、宇宙くんの作成した鳥観図に50センチ刻みで引かれた等高線は、一部破損はあるもののきれいな同心円を描いていた。
「ここは自然な丘じゃない。人為的に作られた、おそらくは古墳だろう」
「地下2メートルくらいに粘土質で固められた空間の痕跡があったわ。土が流れ込んで埋まっちゃっているけど、ここに柩が納められていたのではないかしら」ろアリッサ。
「え、ここ、古代人のお墓だったの? この祠の下に人骨が埋まっているの?」
私の問いにアリッサが答えた。
「人骨も、それが入っていた木棺も、長い間雨ざらしだったからもう土に返って原形をとどめてない可能性が高いかな。でも副葬品かしら、金属反応があるわ」
アリッサがパソコンのマウスを盛んに操作する。
「どうやら長さ30センチくらいの円筒状のもののようね」
「古墳って言ったら、五世紀とか六世紀だよね。祭祀用の鉄器とか青銅器の神器かな」と私。
「青銅器とか、まして鉄器だったらもっと経年劣化しているはずよ。金か、もしかしたら未知の金属? あ、表面に文字みたいなのが彫られている。紙の上で転がすと文字が刻まれる、印鑑、印章みたいなものなんじゃないかな」とアリッサ。
古墳にそんな副葬品なんて聞いたことがない、新発見だ。軽い気持ちで始めた調査が、なんかとんでもないものを発見してしまったのかも。
「文字、もう少しはっきり読めるようにできないかな」
「もうこれが限界ね、見たこともない文字だわ。どう?喜屋武くん、読める?」
周囲にメグちゃんがいないのを確認して、宇宙くんが言った。
「意味までは分からないが、僕の星系が使用している文字のよう」
「なんか、いいものが見つかったみたいで、良かったですね」と能天気な発言をしてメグちゃんが帰宅した後、残りのメンバーで調査の結果を検証した。
「これって、古墳時代にも、喜屋武くんの星系から、喜屋武くんみたいなヒューマノイドが送り込まれていたってことだよね」とアリッサ。
「その可能性は否定できない」と宇宙くん。
「ねえ、アリッサ、この時代にワープして確認することは可能?」
「簡単に言わないでよ、姫乃。タイムワープは50年までって決められているのよ。物理的限界っていうか、理由は禁則事項だから言えないけどっ!」
なんかタイムワープの理屈は分からないが、そういうことらしい。
「それに、仮にこの時代の地球に宇宙人が来ていたとして、それは私の存在する世界線ではもう起きてしまったこと。再調査は不要だわ」
それよりも、私は気になっていたことを宇宙くんに質問した。
「ねえ、頑丈なヒューマノイドも死んで埋葬されると土に戻っちゃうの」
「構成物質はヒトとさほど変わらない。僕たちヒューマノイドは、その機能を瞬発力系に極振りされているため、経年劣化に弱い。人間の寿命よりも早く活動限界を迎える」
「ようし、祠の下、掘り返してみようか」というアリッサの提案は、「やめて!この罰当たり!って、勘当されちゃう!」と、弥生に即座に却下された。
いずれにしてもこれは文化祭で発表して良いような代物ではない。
後日の部活の「文化祭の課題はやり直しにします」という私の発言に、何もしていなかったメグちゃんが「えー、なんでですかー」と机に突っ伏した。
それよりも、あの日の宇宙くんの「ヒューマノイドは人間の寿命よりも早く活動限界を迎える」という言葉が、私にはショックだった。
「宇宙くん、私よりもずっと早くに死んじゃうの?」