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蔵王権太郎

 あのゴルゴダとの廃工場の対決から二週間ほどたったある日のことだった。

いかつくてでかくて、首に刺青タトゥーがあるかなりヤバそうな男が、『喜屋武きゃんって奴を知らないか』と校門を通る生徒に片っ端から声をかけている」という報告がクラスメートからあった。

 そんななりの知り合いは一人しか思いつかない。宇宙そらくんと駆け付けると、案の定、あの、宇宙そらくんがぶっ飛ばしたゴルゴダ総長、蔵王権太郎が校門のところにいた。


「よう、あの時はすまなかったな」

 意外にも殊勝しゅしょうな態度の蔵王の用件は、しかしやはりというか、喧嘩けんかだった。

「なあ、喜屋武きゃん。もう一度、タイマン勝負してくれないか」


「外で喧嘩はだめよ」

 宇宙そらくんを制して、私がぴしゃりと返事をした。


 結局、私の家の道場で、異種格闘技の手合いをするという体裁をとることになった。

 二人の対決は、あの時の再現映像のように、宇宙そらくんの勝ちだった。

 蹴り倒され、大の字になって喘いでいた蔵王は、ようやく起き上がると、宇宙そらくんに向かって頭を下げた。

「やっぱり全然敵かなわないな。なあ、喜屋武きゃん。ゴルゴダの総長になってくれないか。お前に負けて俺は求心力を失った。もう組織をまとめられないんだ」


「冗談じゃない!」私は宇宙そらくんが口を開く前に即答した。

「あんな連中をまとめるから、ロクでもないことをするのよ。さっさと解散しちゃいなさいよ」


「それなら俺を舎弟にしてくれ、喜屋武きゃん、いや喜屋武きゃんさん」と蔵王が頭を下げた。

 意外な展開にしばし逡巡した彼がようやく口を開いた。

「舎弟はだめ、でも友達ならいい」


 後日、ゴルゴダと縁を切ってきた蔵王と、宇宙そらくんのマンションで、アリッサ、弥生を交えた四人で話し合った。

 蔵王は、なんと、まずアリッサに土下座をした。

「ひどい目に合わせちまった。許してもらえるとは思ってないが、とにかく申し訳なかった」と彼が言い終わるやいなや、アリッサが思いっきり蔵王の頬を張った。

「これで許してあげるわ」とウインクする、何とも男前のアリッサだった。


「そもそもなんであんなことをしたのよ」と私は蔵王に問うた。

「おまえの高校の奴から連絡があって、嫌な転校生がいるのでぶっ飛ばしてほしい、そしたら飛び切りいい女をトロフィーガールとして提供するって…」


「うちの誰がそんなことを?」

「それが良くわからないというか、思い出せない。とにかく河川敷の五本松のところにその女がいるから、そいつをさらって久我という女に連絡しろって、番号を教えられた」


「アリッサもなんでみすみすそんなところに行ったのよ」と弥生。

「下駄箱にラブレターが入っていて、まあ、絶対あやしいと思ったけど『虎穴に入らずんば虎子を得ず』ってやつ? 結局『飛んで火にいる夏の虫』になっちゃったけどね、あはは」と何とも緊張感のないアリッサである。


「その女を使って喜屋武きゃんさんをおびき寄せて、その女も転校生でろくな奴じゃないから、喜屋武きゃんさんをぶちのめした後で思いっきりひどい目にあわせてしまえと…」


「一体、うちの高校のだれがそんなひどいことを」

「俺の知っている奴だった。でも、どうしても名前が思い出せないんだ」


「そもそも蔵王くん、うちの高校に知っている人なんているの」と私が聞くと、意外な応えが返って来た。

「俺、昔、風華学園高等部にいたんだよ。これでも柔道部で全国目指してた。それが四年前、カツアゲされた同級生を助けようとして、相手を病院送りにして警察沙汰になって、部が出場停止処分にならないように退部、退学することになったんだ」

「それでも少しは愛校心ってものが残ってて、そんなひどい転校生ならでやってやろうじゃないかって…」


「奴らのやりそうなこと」と宇宙そらくん。「やはり、奴らは僕らのそばにいる」

 私たち四人は、暗澹たる気分で顔を見合わせた。


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