喜屋武くんは女の子?
第二部を開始するに当り、登場人物を整理しておきます
(歴史部)
久我姫乃:このお話の語り部、風華学園高等部二年三組のクラス委員、歴史部部長、幼い頃より空手を習っている。
喜屋武宇宙:主人公、風華学園高等部二年三組の転校生、自称沖縄出身、歴史部員。実はアルファケンタウルス星系の知的生命体が生成した対地球人コンタクト用ヒューマノイド。
アリッサ・セントメリー:風華学園高等部二年三組の転校生、米国出身。実は五十年後の未来世界からやって来た時空管理局の工作員。
神楽坂弥生:風華学園高等部二年八組、実家は稲荷神社。宇迦之御魂大神の神威を受け、この国の安全を守るため魔力を発動する魔法少女
落合恵:風華学園高等部一年二組。宇宙や弥生の正体を知らない普通の女子高生。宇宙に恋心を抱いている。
(その他)
安田明:風華学園高等部二年三組担任の物理教師。27歳、独身。
木場淳史:風華学園高等部二年三組、バレーボール部のエースアタッカー、宇宙の親友。
蔵王権太郎:不良グループ「ゴルゴダ」総長、身長185センチ、体重100キロ超の大男。風華学園高等部中退。
宇宙くんが転校して二か月近くが過ぎ、季節は初夏を迎えていた。
彼の入部から気の休まる暇がなかった歴史部にも、ゴルゴダとの対決を制し、学業の方も期末テストが終了して、ようやく平穏な日々がやって来た。
そんな時、クラスの宇宙くんとは仲の良い「勉強はさほどでもないけど明るくて騒がしい運動部系のグループ」が、宇宙くん抜きで、彼の噂話をしているのが耳に入ってきた。
気になった私は、そのグループの一人で、宇宙くんの親友の木場淳史くんに聞いてみた。
「さっき、みんなで喜屋武くんの話をしていたみたいだけど、何かあったのかな」
「そりゃ、姫乃、悪いが女子にははちょっと憚られる話なんだよ」
口ごもる彼に、それでもしつこく迫ると、「他の女子には言うなよ」と釘を刺さした上で、しぶしぶ彼が重い口を開いた。
「姫乃は、チョコレート好きか」
「ん?、好きだよ、突然何よ?」
「裸の男の子の形をしたチョコと、女の子の形をしたチョコがあったら、お前はどっちを選ぶ?」
「え、もしかして、男の子の方がちょっとだけ多くついている部分があるから、って、そういう話?」
「そういう話だ。シャワーを浴びていた宇宙の股間を偶然見てしまった奴がいてさ、そこにはあるはずのものがなかったんだって」
絶句する私に構わず、指を一本ずつ立てながら、彼は自分の立てた仮説を説明した。
「可能性その一、そいつの見間違い。俺はまあ多分そうだろうと踏んでいるんだけど、でも奴はそんなことない、確かになかったと主張している」
「可能性その二、実は喜屋武は女の子だった。確かに女装したら似合いそうな顔立ちではあるけどな」
「可能性その三、特別にちっちゃいとか、特異体質とか、病気かなんかで切除したとか、他人には言いにくい事情がある。この可能性がある限り、軽はずみに本人には聞けないよな」
「じゃなかったら、それこそ改造人間とかヒューマノイドだったりしてな。あの超人的な能力からすればひょっとするかもな」
「…」
「え、何深刻な顔してんだよ。そんなことあるわけないじゃん。冗談だよ」
やばい、これはやばいですよ。かくしてその日は落合恵を除いたメンバーが部室に参集し、緊急会議となった。議題はもちろん宇宙くんの男性器についてである。
「秋には修学旅行があるから、一緒にお風呂に入ることになるよ。どのみちこのままじゃまずいんじゃない」と弥生。
「上層部に許可を取って、今から男性器を生成する」と宇宙くん。
「え、そんなことできるの」と私たちは声をそろえた。
「男性器がないのは、生成時のバグか、さもなければ生成者の手抜き、事情を説明すれば許可は問題なく取れる思う」
「その、自分で作れるの。どうやって」と、女性陣は興味津々だ。
「僕には物質を具現化する能力が備わっている。明確に形状をイメージできれば一晩で生成可能だ。クラスメート全員の男性器の形状は記憶しているので、その中の誰かを選んでイメージすればよい」
「えー、誰のにするの」と弥生。
「どうせなら一番大きいのにしなよ。ね、ね、誰が一番大きいの?」とアリッサ。
男性器を記憶しているということは、我々女性のものも記憶しているということ、こやつらはそれに気が付かずに下ネタ話に盛り上がっているのか。
まあ、全裸で堂々としていたアリッサはそんなこと気にならないのだろうけど。
「生成した」
翌日、宇宙から報告があり、私たちは再び部室に集合した。
「見せて、見せて」とアリッサは早速彼のスラックスを降ろして観察していたが、私と弥生は乙女なので後ろを向いていた。
「そうかー、宇宙くん、ちゃんと男の子の身体になれたんだ」と、私はとても嬉しい気分だった。
ほどなく宇宙くんの別の噂を耳にした。
噂曰く、「喜屋武はあそこに毛が生えていない」
どうやら彼は毛の方までは気が回らなかったようだ。
「そういえば、プールの着替えの時に見たけど、アリッサもつるつるだったよ。邪魔だから処理してるって自分で言ってたよ」
クラスの女子がそう証言、二つの話が重なり、やがてクラスに「喜屋武とアリッサは出来ていて、夜な夜なエッチの度にお互いにシモの毛を剃り合っている」という噂が、まことしやかに流れることとなった。