歴史部、その新たなるミッション
宇宙くんのマンションの殺風景なリビングのテーブルを四人で囲んだ。
初めて訪れる部屋の様子に興味津々の弥生をしり目に、早速アリッサが用件を切り出した。
「本部と交信をして事情を説明し、特別に禁則事項の一部を解いてもらったわ」
いつの間に交信してたのか全く気が付かなかったが、未来人には未来人のやり方があるのだろう。
「私は未来の世界で時間を管理する国際組織に所属しているの。まずは私が存在する未来世界の成り立ちについて、簡単に説明させてね」
アリッサは、彼女の存在する未来の世界線とその修復能力について話し始めた。
「画期的な新発明をするはずだった人が不慮の事故で亡くなると、その世界の未来は大きく変わると思う?」
一時的に状況は変化するものの、その発明は遠からず別の人によって成し遂げられ、未来も当初の発明者が生存した場合と同じ世界線に徐々に収斂していくらしい。
「時空の流れそのものに自己修復能力があって、多少の揺らぎであれば吸収して修復してしまうの。そうして今私がいる未来世界は、存在し続けることができる」
ところが、アリッサの所属する組織は、私たちのいる時代で地球外を震源とする時空の揺らぎを観測した。
「未来を改変してしまうほどの大きな揺らぎが過去で発生すれば、私が存在する世界は、その瞬間に消えてなくなってしまうわ」
これは看過できないと判断した組織の指令を受けて、彼女は何度も我々の時代にタイムワープし調査を行った。
「そして、ようやく喜屋武くん、あなたを見つけたってわけ」
「最初は、あなた自身が揺らぎの発生源と思ったけど、そうではなかった。震源はあなたと敵対する組織の方。喜屋武くん、率直に聞くけど、あなたたちは何者? そして何を意図しているの」
「僕は、地球人がアルファケンタウリと呼んでいる星系の惑星の生命体によって生成された対地球人コンタクト用ヒューマノイド。僕のミッションは爆発的な増殖と自律的進化を続けるこの星の観測と報告」
「やっぱりね。ということは、喜屋武くんの惑星は、この星の進化を阻害する意図は持っていないということね」
「上層部の意図までは分からないが、少なくともそのようなミッションは受けていない」
「でも、あなたの対抗勢力はそうではないみたいね」
「同じ星系の別の惑星からも、僕のようなヒューマノイドが送り込まれている。そのミッションの中に地球人の自律的進化を阻害する実験的プログラムが含まれていると推測する」
「ってことは、あの中にそのヒューマノイドがいたって訳?」と私が口を挟んだ。
「いない。あの連中は馬鹿だから彼らに利用されただけ。姫乃、姫乃は平和の反対って何と思うか?」
「うーん、戦争?」
私の考えなしの返答に、宇宙くんが説明を加えた。
「平和とは社会秩序が保たれている状態。平和を壊すのに必ずしも戦争は不要。地球人の精神に作用して社会に無秩序や混沌を引き起こせばよい。それが彼らの常とう手段」
「あれだけのことをしても警察が来なかった。廃工場の周囲に結界が張られていた。彼らはあの近くにいて、成り行きを観察していた」
「ところで弥生さん、あなたの力は何」とアリッサが話題を彼女に振った。
「私は、この力を稲荷神社の神の使いの白狐のお告げを受けて覚醒させた。稲荷神社の神は宇迦之御魂大神、五穀豊穣、商売繁盛、家内安全をつかさどる神様。その神威を受けた私の力は、この国の安全に害を為すものに発動する」
アリッサが三人の立場を総括した。
「なるほどね。喜屋武くんは、地球人の観察と報告がミッション。そのために地球の自律的進化を阻害しようとする敵対勢力を排除する必要がある」
「弥生さんは、宇迦之御魂大神に代ってこの国の安全を脅かすものと戦うのよね」
「そして私は、持続的発展を続ける地球と地球人の歴史を改変しようとする者の排除がミッション」
「要は、三人とも、『あいつらをぶっ飛ばす』ってことよね。私たち、共闘しましょう。取り急ぎ、この歴史部がその参謀本部ってことでいいわよね」
「賛成」と弥生。
「それで構わない」と宇宙くん。
ちょ、ちょっと待ってよ。歴史部の部長は私なんですけど。
宇宙人と未来人と魔法少女に交じって普通の人間が一人、私は地球の平和を乱す宇宙人と戦うという、とんでもない部の部長になってしまっていた。
これにて役者が出そろいました。
次のエピソードからは、第二部ということで、よろしくお願いします。