決戦!ゴルゴダ vs 歴史部
先手必勝と蔵王が宇宙くんに襲い掛かり、次々とパンチを繰り出すも、宇宙くんが余裕でそれを躱す。
蔵王は大振りで無駄な動きが多い。宇宙くんの動きと比べるとスローモーション映像のようで、幼い頃から空手をやっている私からすれば実力差は歴然だ。あれでは蔵王のパンチは当たらない。もっとも、当たったところで、轢き逃げされても平気な宇宙くんはどうってことないのかもしれないけど。
蔵王の息が切れて来たところで、宇宙くんの反撃が始まった。ジャブで相手をのけぞらせると、宇宙くんの前蹴りが相手の蔵王のみぞおちにめり込んだ。
「ぐっ」
相手も不良グループで総長と呼ばれるだけあって、彼の蹴りを倒れずに持ちこたえた。しかし動きが止まったこの瞬間を宇宙くんは見逃さなかった。すかさず繰り出された回し蹴り、右足を鞭のようにしならせたハイキックが相手のこめかみにクリーンヒットした。
さすがの蔵王もたまらず仰向けに倒れ、数回痙攣すると白目をむいて全く動かなくなった。
予想もしていなかった総長の敗戦に一瞬静まり返ったゴルゴダの連中だが、我に返ると騒然となった。
「信じられん、総長がやられた!」
「畜生! 弔い合戦だ、行くぜ!」
「生かして帰すな!」
不良どもが怒号を上げて、今、まさに総がかりでこちらに向かってこようとしていた。
「これは危ない!」と思った。
いくら宇宙くんが強いからって、三十人をいっぺんに相手はできない。少なくない人数が私と弥生に襲い掛かってくることは避けられない。
それに、ここまで本気になった宇宙くんを見るのは初めてだ。私たちを庇おうとした彼が、手加減が効かずに相手に大怪我をさせたり、死人が出してしまう可能性だってありそうだ。
「がっ」
その時だった。先陣を切って勢いよく宇宙くんに向かって駆け出していた数人が、顔を抑えてうずくまった。
弥生が小銭を発射したのだった。小さなコインでも猛スピードがあるとかなりのダメージを与えるみたいだ。
「姫乃、小銭、切らしちゃった。貸してくれる?」
「なるべく十円玉にしてね」
小銭入れを彼女に放ると、再び弥生がコインを発射し、前面の不良どもが顔を抑えてうずくまった。何が起こっているのか分からず、足止めを食った不良どもがじりじりと後ろに下がる。
旋盤だろうか、大きな機械が連中の頭の上をかすめ、その背後の壁に激突、轟音と共に人がが通れるくらいの穴が開いた。すごい!弥生ったら、こんなものまで飛ばせるんだ!
弥生が引き起こす不可解な現象と、宇宙くんの圧倒的な戦闘力に裏打ちされた迫力に、明らかに相手が怯んだ。
「こ、こいつら、化物だ」
河川敷で二人に叩きのめされた不良高校生たちは、我先にとその壁の穴から逃げ出していった。
私は宇宙くんの前面で硬直する敵を回避してアリッサの元に駆け寄った。彼女をガードしていた紫やピンクの髪色をした女どもを容赦なく殴り倒し、彼女の縛めを解いた。
こんな恥辱を受けて、さぞかし辛い、怖い思いをしたに違いないと思ったが、当のアリッサは、平然と眼前の乱闘を注視していた。
もはや大勢は決したようだ。圧倒的な力の前に戦意を焼失したゴルゴダの不良どもが、蜘蛛の子を散らすように、一人、また一人と壁の穴から逃げ去っていく。
それでも何とか踏みとどまっている十人ほどの連中に向かって、冷静に戻った宇宙くんが倒れて全く動かない蔵王を指さして言った。
「念のため病院に連れていったほうが良い」
残ったゴルゴダの連中が総長の巨体を抱えて出ていき、廃工場は無人になった。我々の完全勝利だ。
アリッサは臆するところなく全裸のままで宇宙くんのところに歩み寄った。
「どうやら、あなたたちとは共闘をした方が良いみたいね」
宇宙くんも、彼女の姿に動じることなく、ことばを返した。
「アリッサのミッションについて聞きたい」
「それでは、早速作戦会議と行きますか」
私たち四人は、廃工場を後にすると、宇宙くんの住むマンションに向かった。