近くて遠い距離
本作品をご覧いただき、ありがとうございます!
青春の真っ只中で、すれ違いや葛藤を乗り越えながら成長していく主人公たちの物語を描きました。日常の中に隠されたささやかな感情や、一見平凡に見えるけれど特別な瞬間が詰まっています。結城涼と相川奈々の関係性がどのように変化していくのか、一緒にその道のりを楽しんでいただけたら嬉しいです。
少しでも読者の皆さまの心に響くような作品に仕上がっていることを願っています。それでは、どうぞお楽しみください!
「おい、相川。これ、ノート貸してやるよ。」
結城涼が私の机にノートを滑らせてきたのは、二時間目の授業中のことだった。黒板に書かれた内容がまるで頭に入らない私とは対照的に、彼は真面目そうな顔をしてノートをとっていた。
「…別に頼んでないけど。」
そっけなく返すと、彼は小さく笑った。
「相変わらず素直じゃないな。でも、テスト前には感謝することになるぜ。」
「テストなんてまだ先でしょ。」
そう言いつつも、私の視線はノートに吸い寄せられていた。そこには要点が綺麗な字でびっしりとまとめられていて、思わず見入ってしまう。
(悔しいけど…ちょっと助かるかも。)
結局、ノートを返すのはなんとなく気が引けて、そのまま机の端に置いておいた。
昼休み、友達の佐々木真由と一緒にお弁当を食べていると、真由が耳打ちしてきた。
「奈々、最近結城くんと仲良しじゃない?」
「は?全然違うけど。」
思わず声を荒げてしまい、周りの目がこちらに向く。
「だって、よく話してるじゃん。隣の席だからってだけ?」
「そう。それだけ。」
真由は興味津々な様子で微笑む。
「でもさ、結城くんって結構かっこいいよね。奈々が羨ましいな。」
「だから全然そんなんじゃないってば!」
思わず声を張り上げたその瞬間、誰かが私たちの机に近づいてきた。
「お前、俺のこと話してただろ。」
声の主は結城だった。タイミングが悪すぎる。
「な、なんであんたがここに!」
「たまたま通りかかっただけ。で、俺のこと話してたんだろ?」
「別に…大したことじゃないし!」
真由はそんな私たちの様子を面白がって見ていた。
「お似合いだと思うけどなー。」
「ちょ、やめて!」
私は真っ赤になりながらその場を去りたかったけど、結城の笑顔を見た瞬間、なんだか負けた気がして悔しかった。
その日の放課後、部活の練習を終えた私は校門の近くで誰かを待っているような結城の姿を見つけた。
「…またあんた?」
「またってなんだよ。」
彼は少し不満そうな顔をしながらも、私をじっと見た。
「今日はちゃんと話したくて待ってたんだ。」
「話って…何の?」
「あの日のことだよ。」
その言葉に、胸がざわつく。彼が言っているのは中学時代のことだとすぐに分かった。私が告白して、彼に拒まれたあの日。
「もういいって言ったでしょ。」
「でも、俺がちゃんと謝らなかったから、ずっとお前を困らせてるんだと思う。」
真剣な眼差しに、私は言葉を詰まらせた。だけど、簡単に許せるわけもない。
「謝られたからって、あの時のことが消えるわけじゃない。」
「そうだな。でも、それでも俺は謝りたいんだ。」
結城の声には不思議な説得力があった。なんで今さらこんな話を持ち出してくるのか分からないけど、その真剣な態度が逆に私を困惑させる。
「…勝手にすれば。」
そう言って立ち去ろうとした時、彼が一言つぶやいた。
「俺、後悔してるんだよ。あの時のこと。」
その言葉が、胸の中にずしりと重く響いた。
翌日、結城は相変わらず隣の席で私に話しかけてきた。
「お前さ、部活忙しいのにちゃんと課題やってるの、偉いよな。」
「別に普通でしょ。」
「いや、俺には無理だわ。尊敬する。」
突然の誉め言葉に戸惑いながらも、どこか悪い気はしなかった。
「そんな持ち上げても何も出ないけど。」
「本音言っただけだよ。」
その笑顔を見ていると、なんだか少しだけ心が軽くなる気がした。私たちの平行線は、ほんの少しだけ近づいているのかもしれない。
部活帰りの夜、星空を見上げながらふと思った。
(もしかして、私はまた彼に惹かれているんだろうか。)
でも、それを認めるのはまだ怖かった。
最後まで読んでいただき、ありがとうございました!
奈々と涼の物語、いかがでしたでしょうか?日常の中で繰り広げられる小さなすれ違いや、ときめき、そして成長を感じ取っていただけたら幸いです。
これからも彼らの関係がどのように変わっていくのか、続きのエピソードをお楽しみいただければと思います。二人のやりとりが、読者の皆さまの一日の癒しや楽しみになれば嬉しいです。
次回もぜひお楽しみに!これからも応援よろしくお願いします。