女神か死神かダ女神か
転生モノを作るのは初めてですが、最後まで楽しんで書いてみます。
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!ムリムリムリムリ!!!助けてぇぇぇぇぇ!!!」
雲より高く、大気圏ギリギリの位置から宿敵であるラズメト王国へ奇襲攻撃をしかけようと落下していた男がいた。
しかし、想像以上に怖かったようで、奇襲攻撃というのに声をあげては奇襲とはならず、衛兵達にすぐバレてしまった。
「な、なんだ!?敵襲か!?どこからだ!?」
……案外バレてないのか?
やっと目視でラズメト王国の王城を確認出来た時、魔法探知の指輪が魔法を探知し、指輪をはめている右手をかざす。
魔法の反応は王城からで、周りを6枚の防壁魔法で
囲っている事が判明。
「6枚!?この国の王宮魔法使いはバカか!1枚でも厄介な防壁魔法を6枚!?絶対、死ぬじゃねぇかぁぁぁぁぁぁ!!!」
と、叫んでも、落下しているのでどうする事も出来ず、ただ防壁魔法との距離が縮まるばかりだ。
「3…2…」
便利なのかどうなのか、魔法探知の指輪が防壁魔法との接触するタイミングのカットダウンを始めたが、これはどう見ても死のカウントダウンだろ。
「やっぱムリムリムリムリ!!!ぜぇぇぇったい死ぬぅぅぅ!!!」
「…1」
顔の前で腕をクロスさせ衝撃に備え目をつぶる。
「…0」
「ガシャーン!!!」
目を開けると、1枚目の防壁魔法を破って突破していた。
…あれぇ?…案外いけるのでは?
2枚目3枚目の防壁魔法も難なく突破し、「イケる!」と確信した俺に余裕ができ、自然と笑みが零れた。
「よしっ!このまま一気に攻め込むぞ!」
4枚目5枚目の防壁も軽くブチ壊して最後の防壁を迎える前に一時停止させよう。
この後の展開を先に言うと、俺は6枚目の防壁をブチ破れず…死ぬことになる。
その前に、俺がどうして大気圏から落下するような羽目になったのか説明しないと、ただの自殺願望者と勘違いされてしまいそうだ。
現世時代。俺こと花山尊
「ホントお前は何をやっても平凡だな!」
「あなたといても普通すぎてつまらないの」
「何をやってもダメだな(笑)惨めすぎだろ」
上司に『平凡』すぎと罵られ
彼女に『普通』すぎとフラレ
同僚に『惨め』とバカにされ
コンビニの売れ残った弁当を片手に帰路に着く。
深夜2:00。こんな時間に横断歩道の赤信号を無視して横断できない自分が嫌になる。
信号が青に変わり横断していると、信号無視した車が突っ込んできた。
避けようと思えば避けれたが…
気がつくと目の前には『女神』と名乗る女性が立っていて、こう言ってきた。
「あなたの人生をずっと見てきました。大変でしたね…ぷふっ」
ん?…今、この人…笑わなかった?
「大いに笑わせてもらったお礼に、5回まで人生をやり直せる力を与えましょう」
「え…5回も」
「ただし、現世では無理なので異世界になりますが。よろしいですか?」
女神の顔を見て、俺は口を開いた。
「お断りします」
「やはりそうですか。それでは、転生について…説明…を…今なんと?」
「お断りします。と言いました」
「えぇ?嘘でしょ?」
「断った場合、俺はどうなるのでしょうか?」
「えっ、えっと…断られると思っていなかったので…」
「まさかと思いますが」
「…そのまさかです。てへっ」
何なんでしょうかこの女神。神←と付いてるだけで、本当は頭の文字に『ダ』が付く神じゃないのか。
「えっと…どうしましょう。…一度さっきの事故の場面に戻して苦しんで死んだ後、他の人に処理してもらうか…それとも…」
おいおいおいっ!
サラッと恐ろしい事を口にするな。
このままでは最悪な展開になりそう(確実になる)だったので、俺は女神の提案を受け入れて転生する事に決めた。
よく考えれば、現世での『平凡』『普通』『惨め』な生活とサヨナラでき、転生先で新しい自分を謳歌出来ると考えれば断る理由などなかった。
「5回まで人生をやり直せる」と聞いて「5回も平凡で普通で惨めな人生をなぜ繰り返さねばならないのか」という考えに至った自分はやはり…
「女神様。転生の件お受けします」
「ほ、本当ですか!?」
「本当です」
提案を受け入れて転生しますので、その手に持っている一国をも吹き飛ばせそうな神器をしまって下さい。
「はぁ…良かったです。…安心しました」
安心しました←は、「あなたを私の手で始末せずに」という上の句が付きますよね。
さっきあなたが他の女神と「もう、ここでやっちゃっていいかな?」と水晶玉で会話しているの聞いてましたから。
「うっうん!それでは、転生について説明しますね。一度しか言わないのでよく聞いといて下さい」
「お願いします」
「転生先はブレスト王国に限定します。私の管轄なので。そして、あなたには転生を5回できる能力を差し上げます。回数が減る条件は『死』です。死ぬと次に目を覚ました時にはもう転生しているように設定しました。転生した後は、前の記憶も引き継ぐようになっています。ご質問はありますか?」
「あの、ブレスト王国とはどんな国なんですか?」
「…行ってみれば分かります。す、素晴らしい国ですよ!」
ん?何だろう。すごく嫌な匂いがプンプンしてきたぞ。
「質問は以上ですか?」
「いや、まだありま…すけど…何でもないです」
「そうですか。良かったです」
まだ聞きたい事は山ほどあったが、あの神器をチラつかされては質問しようにもできない。
この神、本当は死神なんじゃないのか?
「それでは良い転生ライフを」
「おっ、おぉぉぉ!」
女神の言葉と同時に俺の体が宙に浮き、天井の空間に吸い込まれ、目を覚ますと母親らしき人に抱きかかえられていた。
周りを見渡すと田舎の風景と似ているが、見たことのない鳥が飛んでいるところを見ると、間違いなくここは異世界だ。
その女性は優しく聖母のような微笑みを見せながら…俺を井戸に投げ入れる。
「は?なんで!?待って待って待って!嘘でしょ!?」
母親の姿がどんどん遠くなり、やがて水の中へと落ちてゆく。
「く、苦しい…息が…だ、誰か…たす…け」
次に目を覚ました時、俺はまた母親らしき人に抱きかかえられていた。
さっきの水の中の苦しい記憶が鮮明に蘇り、俺は暴れだした。
「は…離せぇ!俺を今すぐ開放しろー!」
「あらあら。元気な子ねぇ」
母親らしき人は俺を………ベビーベットへ寝かせて頭を撫でた。
緊張の糸が途切れた俺は、ベビーベットの中で気絶した。