第9話 審神者のガキ
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たまたま拾った人間の女は、巫女服を着ているにしては異様に手足や顔立ちが痩せ細っていた奴だった。
気晴らしの散歩ついでに空を飛翔している途中で見つけ、女は草むらの上で寝転がっていたんだが。十二神将の誰かにしては、服装がおかしいし痩せ細っている奴だなんていないはず。気になって降りたが、やはり見知らぬ女だった。顔立ちも幼いし、まだガキだと言うのはわかったが、何故里のはずれにいるのがわからない。
起こしてみれば、人間特有の香りが立ったのと同じくらい、強い瘴気の臭いも立ち込めてきた。邪悪な女ではなく、弱々しい感じからして呪をかけられたのだろう。臭いを嗅ぐふりをして近づけば、心臓あたりにその兆しがあった。何かに利用されたのかと聞けば、今時あり得ない『審神者』の贄として親に殺されかけたと。
審神者とは、天上の神の神託を受け、神意を解釈して伝える者のことだが。時代を経るごとに、意味合いが変わって神々への生贄と同等扱いされるようになった。経緯は人間らの勝手な解釈だ。
とくれば、その親は確実に地獄行き。術師だろうが、身体を痛み分けて産んだ子を道具としてしか利用しないのなら報いは相応に、天上の神より与えられる。
砂羽と名乗った、痩せ細ったガキを利用するだけ利用したのなら、それは至極当然だ。下位であれど、神の一端である俺ですらわかる事なのに愚かでしかない。
さらに、呪はまだかけられて日が浅い。使い物にならないで贄の枷をかけたというのなら、荒神扱いしてくれた報いをしよう。そのために、まずは砂羽に体力などをつけさせるのに里へと連れて行き、美味い飯をたらふく食わせることにした。
朱雀には勘違いされかけたが、里に着けば天一も材料提供してくれた。お陰で、砂羽は初めてのきちんとした食事を美味そうに頬張り、笑顔になったんだが。
その笑顔が、ガキなのにめちゃくちゃ愛らしくて、一瞬胸の奥がギュッとうめいた音を立てた気がした。それがなんの事かわからないでいたが、朱雀の生姜焼きをペロリと平らげた砂羽の胃袋はまだまだ余裕がありそうだったんで、俺も作った『角煮』を披露することにした。
照り輝く、黄金とも言えような出来栄え。
それに煮汁を取り分けて作った半熟の煮卵も添えてやれば、砂羽はさらに目を輝かせてくれた。身体は痩せているのに、目はすげぇ大きいんだよな。
「と……騰蛇様! このご飯は、なんですか?」
食いたいって顔をしているのに、幻影のような犬っころの尻尾と耳が見えた気がした。思わず、爆笑したいのを堪えながら、砂羽の痛んだ髪をガシガシと撫でることで誤魔化した。
「角煮って料理だ。箸でも気をつけろよ? かなり柔らかいからな」
「……かくに」
本当にまともな食事をして来なかった砂羽は現世に基本的な食事を知らないでいた。食事作法は綺麗だが、知らない食いもんが多過ぎる。握り飯すら知らないだなんて、どんな育て方をしてきたのか。今更だが、砂羽の親への苛立ちが腹の奥底から湧き上がってきた。