第80話 我らは枝葉
異界の里には、風が吹く。
異界の里には、緑が多い茂る。
異界の里には、模した生き物たちが大勢ある。
それを整えてくださったのは、沙霧のお兄さま方だと……わたくしは、騰蛇様から教わりました。
「天一が力仕事を担当する分、馳走の準備はからっきしでな。沙霧が『審神者』の役目を得て、成長を止めなければここにはいられなかった」
今日、騰蛇様と里の方を散歩したいとおっしゃってくださったので、同行させていただくことになりました。わたくしとはもう夫婦ですが、まだ口吸いもまぐわいも一切していません。現世、常世、そしてこの狭間。
これらすべてが整うまでは自制をしなくては、騰蛇様曰く……堕欲で暴走しかねないとご自分でおっしゃったからですが。わたくしはそろそろと思いましても、殿方の抱える劣情の強さには慎重になりなさいとあねぇらから言われていたので気を引き締めているだけですが。
「だから、『砂羽』であったわたくしの前でお料理をさせなかったのですね?」
「酷いもんだぞ? 咲夜よりつくるものがいびつどころですまない」
「まあ、そんな」
「そんな……が、あるんだ。……けど、これまでの『贄』の肉体を昇華したのはあいつだ」
「……そう、ですか」
穢れを溜め込んだ『巫女姫』と呼んでいた呪箱。
溶かして溶かして……抱えていたのは天一様やほかの十二神将様方も同じく。
けれど、騰蛇様はわたくしを迎え入れるのに決して穢れを受けてはならない。形が整わずに消滅してはいけない唯一の存在だったそうです。
月詠の娘として、すべてすべてを覚えていくことは出来ないけれど。定められた相対のためを思うのなら、どちらかを残す必要がある。
それを、かつての天孫の子らであったわたくしたちが決めたこと。幾度となく輪廻の輪を超えなければ、穢れを一身に受ける呪箱にしかなり得ない。だから、『魂魄』だけはいついつまでも『最初』を思い出せるようにと……最上のひと口を、呪箱になる前にいただけた。
わたくしは此度、ふたつを口にすることが出来たので回復が早かった。
あねぇやおにぃ。
沙霧のお兄様に朱音のお姉様。
霧也様に、白蓮様。
皆様のおかげで、わず百二十年の誤差と天変地異の荒れ方で済んだのだ。出来るだけ、禁忌を避けて避けて……月詠の娘の私が最初に目覚めるためのひと口を騰蛇様に作っていただかねば。
あのおにぎりと、眠る前にいただいたけぇきがなければ……この里は本当の意味でどの境界とも引き離して消滅させるしかなかった。それを止めれたのは、わたくし以外にあねぇたちのお陰もあるから……成せたこと。
十二神将様方もその一端であれ、創られた道具として扱わねばならなかったのは……本当に申し訳なかった。『審神者』に力を与える、羽虫のごとき小さな神だったが。これで、ようやく落ち着いて過ごせるだろう。
常世に行かずとも、末端の神々が凄しやすい異界をこれから紡いでいくのがわたくしのお仕事なのですから。
「さて。ここに握り飯があるが……食うか?」
「もちろんです」
少し空腹を、と思った途端にお弁当の箱を出すのですから。わたくしのはらぺこ具合はいつでも管理されているようです。
次回は土曜日〜




