第77話 中つ国はどこに?
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『偽り』の記憶を埋め込まれ、砂羽を砂羽だと思わせないようにしてきた。
これはおそらく、裏八王のこれまでが『中つ』の婿入りとなる俺に自覚させないためだろう。
熊公の『剣』になるまでの、狭間の記憶を持たないように。
死んだ肉体と魂の循環を成せるように。
俺の肉体はとっくの昔に潰えていた。それは兄者となった綾雅の方も。器がなんであれ、魂がきちんと輪廻の中に循環されているのなら……それでいい。その管理者になるのは、異界の狭間に住まう者たち。
妹になるはずの、ちぃの役割だ。隣に『誰』をはべらせていても、そいつ以外は決して選ばない。
『死』を恐れているのは人間だけではない。
天つ神。
中つ神らも。
常世にて采配を下す王らとて、古い記録には亡者だったと記されているくらい。
神とか人間とか関係ない。聖域の奥にある、鵺の道の入り口に立ちながら俺は考えをまとめようとしていた。まとめようにも、ただ知っていたことを並べる程度しか出来なかったが。
「……ちぃのこと?」
来てくれたのは、砂羽だった。弟にあたるあの青年になった沙霧の様子を見に行っていたらしいが、今は熊公らと馳走をつくるのに忙しいそうだ。
「……外身はお前に似てたが。中身は違うんだったな? 酷い言葉を浴びせたような気がする」
「仕方がないわ。あなたを都波からしばらく引き離すためだったもの」
「あそこから?」
「次の中つ国の支柱。その位置があそこなの。あねぇとあにぃには悪いけど、私が長く呪箱でいたときの輪廻の仕組みはあそこに繋がっていたから」
「……手伝えることあるか?」
「ふふ。『居る』だけでいいの。そこで『普通』に」
「は?」
「深く考えすぎなのよ。人間でいすぎると。役目があったとしても、人間の身体のままでしょう? 私たちも」
「……だからか」
どんな枷があっても、結局は熊公らと違って何度も輪廻の輪を循環しなくてはいけない『人間』と同じ。天孫の子どもだからって、肉体はそのまま人間の構成に近いものとなっているのだ。天災に巻き込まれ、死に、次の生を得ても……なにもかもが『仕方ない』生き方しかないのだと。
「逆に、月詠の娘である『ちぃ』を育てる方が大変だったわ。そのために、百二十年分の穢れを私たちで請け負ったんだもの」
「……ちゃんと、飯とか食ってんのか?」
「超絶料理上手の沙霧よりも美味な馳走をつくってくれる番の異形がいるから! 問題なしよ、直也様」
「……その、様づけやめろよ。はずい」
「あら? お好みでないのなら」
「そんな……高尚な人間でもんでもないだろう?」
「そうよ。ただ『役目』とやらを受け取っただけの存在」
「……面倒だなあ」
ただ単純に生きて死ぬだけの生き方をしたいと思った時期もなくはない。しかし、それを望めないのは『剣』として……素戔嗚の子孫として、砂羽を嫁にもらう時点でもう無理なのだ。
砂羽といるのは全然いいのだが、天孫の役割は面倒極まりない。同じように腰かけてきた砂羽の肩を抱き、しばらく互いに寄り添うようにして道を眺めているのだった。
次回は土曜日〜




