第74話 集まるまでに
白蛇から月兎。
その俗称から『白蓮』と戻るまで……幾百年経ったことでしょうか。
私が八王の長の妻となるまで、霧也様の力が沁み込んだ眼帯で心も魂も勇ましく見せてはいましたが。
(やはり、裏を受け継ぐ天孫の子らには関係がなかった……)
今は敷地内で彼らが集まったから、私は霧也様の屋敷を整えるのに式神をばら撒いている。十二神将はあのちぃ姫が使役するのが本来のこと。であれば、私は現世側の呪法を久しぶりに行うまで。
(穏やかな感覚。狭心が剥がれたことで……こんなにも楽なのね)
白蛇は狼王だった霧也様の写し鏡でしかなかった。異界であるあの狭間で生活するには、もともと寂しがり屋の白蓮では到底無理だったもの。けれど、はるか昔に皇室から『降臨の儀が始まる』と通達をいただいた時には……今日までそのお役目を務めねばならなかった。
夫である霧也様とは契りを交わす前であったから、そこを狙われたかもしれない。
皇室を支える国津神の子孫程度では、天孫の子孫たちには到底力や采配など劣って当然。
しかし、彼らは彼らで魂魄の切り離しで散り散りになる覚悟をしなければならなかった。
数百年、下手すると千年もかかる星の巡り。
それを、沙霧が来てから百二十年で整えられた。都波では『癒しの巫女姫』として崇められていた『呪箱』が狭間に流された最近の激動のおかげで。
私自身も、『呪い』だと思っていた循環が整えられた。
あの狭間には訪れることは出来ても……もう住むことは出来ない。霧也様の妻として、これからは次世代のために生きていくのだ。子を成し、育むための親として……ああ、気恥しいけれど。もう勇ましい態度を取らずに『普通に』過ごしていいのが嬉しく思う。
「「白蓮!!」」
次は厨かしらと廊下を歩いていれば、奥の方から天孫の姫らが私を呼んでくださった。
私は妹よりも姉の立場ではあるが、それは裏の八王家を継ぐ方の妻としてだ。よく似た天孫の姉妹姫にどう声をかけてよいか悩んだが、とたとた走ってこられるおふたりは私に勢いよく抱きついてこられた?
「……あの」
「やっぱり、あねぇよね?」
「そうね!」
「……はい?」
意味が分からず顔を上げれば、おふたりはにっこりと微笑んでいらした。
「年功序列とは言わないけど。体つきもあれだし、霧也のおにぃの奥さんでしょう?」
「なら、順番でいうなら……白蓮が我らのあねぇじゃないかって」
「直也様もね?」
「綾雅様も言ってらしてたわ」
「……えぇ?」
私と霧也様が一番上なのは体格だけでは?と告げても左右に首を振られてしまった。
「異界の狭間で数百年統治していた実績があるもの。我らは呪箱となっていただけ」
「狭間の継承者はちぃだけど。それ以上になるつもりは毛頭ないわ。夫の仕事を手伝う方が重要」
「それは貴女も同じよ? 白蓮のあねぇ?」
「……そ、なの、でしょ」
「普通に話していいのに」
「律儀ね? ちぃの癖が移っているのかしら? 少しどころじゃないものね。いっしょに住んで」
「……わかっ、たわ。けど、こちらが格下なのは忘れずに」
「もうその必要はないわよ」
「ねー?」
「??」
よくはわからないが、天孫の姉妹姫の上に立つことは決まってしまったようだわ。姉らしいことなど、病弱なのが治っただけの身体でどこまで出来るか……ひとまず、食事の用意だけは頑張ろうかしら?
次回は土曜日〜




