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第67話 我が名はひとつ

 何処か。


 何処かでどこかで。


 わたくしたちの双璧を成す、番との出会いはきちんと成したようです。とろとろと溶けていた意識がだんだんと浮き上がっていく感覚を得られました。


 あねぇたち……天津神のあねぇに、中つの剣を受け取ったあねぇ。砂羽のあねぇ。


 だけど、わたくしはとっくに手に入れているから大丈夫です。それぞれの番と出会えたのであれば、わたくしはゆっくりと起き上がりましょう。最上の馳走を最後にこの狭間にて口に出来たのがほんの少し前のことですから。


 あとであとで、綺麗になってからお会いしましょう。


 わたくしの力では少ししかお送り出来ませんが。この狭間に居られる存在はそう多くない。ここは冥府の入り口。


 天と地の境目どころか、常世の中でも最奥の場所。長居し過ぎては、あの世の供物と同じ霞の息を口にしてしまうばかり。ですから、直也のあにぃがこの場所へ送られてきたのであれば……あねぇをちゃんとした屋敷に連れて行ってくれるように誘導します。


 砂羽(わたくし)が呪物の箱だけのために、実は『癒しの巫女姫』の木乃伊となっていたあの屋敷に。


 あの屋敷には、本来の八王を支える使用人たちが今も眠っていることでしょう。


 態と、陰湿な噂を植えつけ。


 態と、わたくしが木乃伊から少し膨らんだだけの呪物を『審神者』として送り付けたのは……あねぇの本当のお父様だと知らないようにしていただけ。


 わたくしは、誰の何者でもない『ちぃ姫』。


 現世(うつしよ)には関係のない、命の塵だった塊から生まれでる月詠の娘なのですから。だからこそ、沙霧のお兄様には最後の最後に気づいてもらえるように……最後に会いに来たのです。貴方様を、呪物の縛から外す役目は妹分のわたくししか出来ないのですから。



『……呼ばせてくれ。お前の真名を!』



 少し遠くで、呼ぶ声が聞こえてきました。あねぇたちの繋がりが確実になったのですから……もう大丈夫なのですね、騰蛇様。


 わたくしの、本当の『名前』を貴方様に告げていい日が。


 この屋敷の女主人になっていい日が、もう来たのですね?


 ちぃでもなんでもない、ただただ黄泉路への足取りを助ける役目を担う者。


 冥府の旅路を、ほんの少し手助けする休み処を作るために……何巡もかけて、この番同士の出会いを画策してきたのは。


 我ら、天津神と国津神の子孫たちしか許されていない。


 海の潮。


 水の潮。


 それらを集めた、月の潮こそが……鵺の道を作り出した本当の理由だと、あねぇもあにぃにも今まで伝えてこなかった。


 張本人、と言えばいいのでしょうか。その記憶が確かであれば、わたくしの本当の名前はただひとつ。



「…………さ、くや……です。と、ださま……」



 口の中が乾ききって、掠れた声しか出ませんでしたが。どうやらうまく届いたのか、騰蛇様はわたくしに覆いかぶさって何度も読んでくださいました。


 心に沁みるあたたかな言霊。


 何百年振りに呼ばれた本当の名前の力のお陰でしょうか。身体がふくふくと膨れ上がり、手足がすらりと伸びていく感覚が心地よい。ある程度、伸びたのを騰蛇様も確認されたのか。わたくしの身体を持ち上げてくださいました。



咲夜(さくや)。飯は後でたらふく食わせてやるが、まずは風呂だな」



 破顔ともいえる笑顔には驚きましたが、言葉を最後まで聞くと顔に熱がこもりました!!



「い、いえ、湯殿に入れてくれたら……それで」

「白蛇様がいねぇのに、自分で出来るか?」

「出来ます! 天一様方もちゃんと起こしますから!」

「もうそこまで、霊力ならぬ神力蓄えたのか。まあ、いいか」



 カラカラと笑う声に温かさが戻った。泣かせ続けてしまう日々が何日続いたかは、現世側ではわかりませんが。おそらく、こちらではほんの数刻だったのでしょう。


 間に合って、本当に良かった。道の方には、あにぃがあねぇを連れて行かれた気配が残っておりました。

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