第63話 天照の娘御
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母様母様。
父様は弟者の素戔嗚尊様であれど。
我らは飾り雛。剣ではなく勾玉より分けられた相対の子孫ら。
子を産むことを勝ち負けの理由にした御二方。
我らは道具ではない。
我らが始祖の伊邪那美様はそのつもりがなかったのに。
孫であるあなた方は命を尊く思っていなかった。
産女のあの人が死ななければ……。
天の穀物を司り、常世の祓を可能にしていたのに……父様が下品だと殺した。だからこそ、父様は常世の狭間にしかいられない。
実の母でない伊邪那美様を母と敬愛する意味もわからなくないけれど。
(……自業自得だわ、全く)
だから、天孫以下の子孫らの繁栄に時間が掛かってしまうのも無理はない。戦乱の世が繰り返され、僅か十数年程度。
さらにその前は百年かそこら。天災は引き起こせない訳があったとしても、『贄姫』を育て上げ……天中地の理を整えるのにはもう十分な時間をいただけた。
私の夫が、次代の天帝の部下。
天帝は狼王だと成す日がきたのだから……お願い、お願い貴方様。氷の綾雅様。
どうかどうか、鵺の道に入ったことはわかったから……迎えにきていただけないこと?
(とは言え、天帝の力をこれほど短く整えたのも……裏八王を祖に持つ礎を埋めたおかげね)
ちぃには酷な任務をさせてしまったけれど。骨も肉も紛い物。最上の馳走を口にした後は、ただの肉塊でしかない。
私を。
中の妹を。
蘇りするためだけの、穢れを受ける呪箱としての役割を担ってきた子。
何度か私たちの意識も混ざって蕩けたけれど……やはり、天照にはなれないとすぐに引き離した。月読の娘はそれでいいと、いつでも損な役回りをしてしまうのに。
『輪廻転生。魂の循環。あるべき存在との交換。これをひとつと限定するのがおかしい。前世と今世も同じ相手が供人とは限らない。それは余程『神』同士でも難しい事柄なのに』
愚かだと我らも揶揄されるばかり。
だから、次代の『己』で交わる相手をまずは間違えてはいけない。我らの番う、最上の夫君は誰なのか。八王家の人間であるのなら『人間の寿命』の中で一度でも良いから寄り添うのだ。
『現人神の意味をきちんと知りなさい?』
此度、その継承者が狼王だと誰が信じるかなんて……二代前は気づかなかったでしょうね? 母様に父様?
とりあえず、形がそろそろ出来そうだから……封じたあの場所を解放してあげましょう。天災で地割れや浸水くらいは当然なので今更だけど。
細い道を見つけたあとは、しゅるりと蛇のように細くなり……道を進んで彼の地へと向かったわ。
次回は火曜日〜




