第59話 『都波砂羽』とは
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砂羽と直也様が定められたのは、幾星霜、幾千年の星の宿りだったかしら??
今はもう朧げでしかない、天孫降臨から散り散りになった神々の子ら。
姉、弟、妹か弟。それが天の子ら。
地はそれぞれに合わせた性別の子ら。天孫……つまりは天照の伯母様の子。
私が中津に嫁ぐことは定められているのは、既に承知の上。
此度は、天と地を切り裂ける『剣』の名を持つ流浪の民として、裏八王から八王の一端に逃げ仰れたけれど。
『……けれど、良かった。ちぃを先に送り届けることが出来て』
都波の礎として、私はあの子のために用意された『中つ姫』でしかないが。
境目に座す、王の妃として……その役目を幾星霜繰り返して来なければ、転輪など不可能だもの。
何百年かに一度は、ヒトが積もりに積もらせる『穢れ』を浄化するのに時間がかかってしまう。その役割を一手に引き受けてしまうのは、神である以上仕方がない。
まさか、二百年程度でその穢れを溜めてしまうだなんて……都波の家がマシだった頃には想像もつかなかったでしょうけど。
『姉上はもう現世へと降臨しかけているし。私は……』
ちぃからだいぶ遠ざかったけれど、鵺の道の途中で直也様と再会??
それは姉上のためには非常に宜しくない。天孫降臨の再現ではなく、我らの『生まれ方の起源』まで戻るなら……母君が火事の中で我らを産んだ世代まで戻ってしまうもの。
『なら、異界に向かうしかない』
白蛇……月兎を彼処から出してあげねば。ちぃ姫の魄を解放して騰蛇とやらの末席には、魂の方を迎えに行ってもらわないと。
鵺の道でも裏道を通り、魚の如く泳ぎ続ければ……邸の湖に飛び出ることが出来たわ。
『あら、我が弟』
審神者とやらの括りで、いつかの『砂羽』の弟として生まれた忌み子。私の姿に驚く顔がおかしいけれど、今はからかって遊んでいる場合ではない。
「……砂羽、だが。私たちの知る砂羽ではないようだ」
白蛇と名乗る月兎をここに座すようにして……二百年近いのね。ごめんなさい、と言いながら眼帯がわりの布を外せば。男と偽る術を解かし、ふわふわの髪がサラサラと流れ……すぐにぽろぽろと涙を流すか弱い女性体へと変化してしまったわ。
「……弟よ。この子を連れてってあげて」
狼王と呼ばれている、あの熊ちゃんにはさっさと安心できる奥さんを返してあげたいもの。私が強く言えば、沙霧は我に返ってから脱兎の如く、鵺の道に連れて行けるように月兎を抱えていったわ。
姿が消えてから、私はこの邸を久しぶりに見渡す。
十二神将の気配はギリギリ残っているでしょうけど……この異界は、今の私が居ていい場所ではないのがわかった。感じる騰蛇の気配から……慈しみの感情があんなにも溢れているんだもの。
「……なら、我が妹のために私が『影霧の舞』を」
直也様がちぃを連れてくるまで、それくらいの引き継ぎはしましょう。
天孫降臨のその先の神話が、神の綴り手である我らの役目だとここからやり直せるように。喉を窄め、私は女と思えない低い声で祝詞を上げながら舞い始めた。
次回は土曜日〜




