第58話 天照の姉、月詠の妹
私の位置は、神の名で言うなら『月夜見尊』のそれ。
あねぇは、高天原の最高神である『天照大神』。
ただそれは、表向きの位置でしかない。
我らは常に、裏八王。
意識を蕩けさせ、狭間の中を行き来しながら……私が向かうのは、『贄の底』とも呼ばれるあの世に最も近い場所の手前に行かねばならない。
なぜなら、そこにあにぃのお嫁様がいらっしゃるかもしれないからです。
異界で、白蛇様が座すことでギリギリ繋ぎ止め。現世側の狼王様が居住地を保護されていたということは。
現世と異界には、あにぃのお嫁様となる私の義姉様がいらっしゃらないということ。であれば、お出迎え手前の準備は妹である私が手助けしなくてはいけません。
私には騰蛇様が魄である肉体を保護していただいているので、地の底である冥府の手前には来れますから。
『……義姉様。義姉様……いらっしゃっいますか? ちぃ姫です』
私の真名をここで告げてはいけませんし、『砂羽』の外側はもう溶けてしまっています。都波の人間ではないので……沙霧のお兄様とは義理でしか縁はありませんものね?
『……いいえ。『私』がそれでないのなら』
ある程度意識をさまよわせてみても、反応がない。あの世は広いようで狭い。狭間であるここであれば、それは尚更。
なら、ここで呼ばせていただいても大丈夫でしょう。
『砂羽姉様、いらっしゃっいますか?』
『砂羽』はたしかにいた。けれどそれは、『ちぃ姫の私』には該当しない。都波の業を一身に受けたのは、そちらの巫女姫に変わらないのであれば。
この身に刻まれたままの、『都波砂羽』が義姉様そのものなのでしょう。
「……ちぃ、貴女……なのね」
『ちぃ姫』の私が引き離される感覚があり、少し離れた場所から義姉様のお声が聞こえてきました。うまく、私から切り離せたのでしょう。
『陰陽』の如く、中津の彼女を。
『はい。ちぃはこれから義姉様とは別に此処へあにぃを待たなくてはいけませんから』
神の末席に嫁ぎ、その供物を一身に受けた『ちぃ』は身体を作り変えなければいけない。半身は人間。半身は神。その儀が整えられるまでは魂魄を切り離して……魂を冥府の手前にて引き留めておかねばならないのですから。
今まで御守りしてきた、義姉様のお迎えをここで見守るためにも。
「……穢れを一身に受け続け、『剣』に嫁ぐまでの護りに使うだなんて。直也が知ったら、彼泣くわよ?」
『ふふ。あにぃなら、そうでしょうね?』
姿はそっくり、中身は別。
あにぃはお迎えに来る準備は出来たでしょうが、私と間違えたら……義姉様から飛び蹴りされますね。白蛇様に溜まった穢れも吸ったのですから、あにぃと武力は同等でしょうに。
次回は木曜日〜




