第57話 氷の兄貴とは
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河川の崩落。
土砂も同じく。
天は雷と共に荒れ狂う。
これを治めるには、四方の八王家当主から『天姫への婿』を差し出す程の事案にまで発展してしまっている。
どうしたものか、と若手の五藤家の息子である綾雅は、狭間から帰還してきた直也に睨まれていた。
「……行けるんなら、行けよ」
「お前が決まっていないのに、どうして『天』へ嫁げる?」
「……伝承通りなら、駆逐するほどの逸材を『剣』が殺したからか?」
「そうだ。それに嘆いた『天姫』が岩殿に隠れた。……これは天孫降臨の伝承よりも前のあれだ。高天原の伝承そっくりと思っていい」
その伝承となる『巫女姫』と『守り人』役はすでに完了している。浄化のために、穢れを一心に受け続け……姉である天照の姫君を娶る覚悟の子孫を連れてこねばならんのだ。
それが綾雅だったとしても、正直言って断りたいのが出来ない。『剣』の上に立つ『王』と認められているのは……正直言って、綾雅以外候補者がいないのだ。最悪なことに、他八王の若造は全員妻子を持つ身。まっさらな男を好むのが、至宝の巫女姫である『天姫』とされている。
しかし、その前に『弟分』である剣の嫁も探さなくてはいけない。
最奥の贄となっている『ちぃ姫』が巫女姫なので相対は存在するのに、現状も直也には嫁候補がいないのだ。
そこを怠ると、綾雅も儀式として天姫の夫にはなれないのだ。この災害を落ち着かせる手順が色々多いのでややこしいのである。
「……よっぽどじゃない限り、俺こばまねぇぞ?」
「阿呆! それだからよりどりみどりとかいうな!! お前、自分がどれほど惚れられ易いか知っているのか!?」
「……お前が言う?」
「…………私は外見上、『氷』だから」
「……の、今回熊公の下じゃね? 俺を仮に弟に仕立てても」
「…………え」
狼王を『兄』ではなく、『父君』として竜王の位置付けをするのなら。綾雅は『兄』の位置でなくてはならない。つまり、狼王の塔力を減らすのなら、さっさと天姫を探せと言うことに計算が追いついた。
直也もわかったのか、綾雅の眼鏡がずり落ちても苦笑いしかしていない。
「狭間は最後でいーんじゃね? 氷の兄貴よぉ?」
「…………弟よ。鵺の道に連れてってもらえないか。いきなりこの肉体で、彼女のところに行けるかわからない」
「ちぃんとこ?」
「いや、我が細君となりうる天姫に」
「……がんばる」
己の細君も、未だ見つけていられないくらいの現状なため。互いに慎重に動こうと頷き合ってから、直也は剣を要にして『鵺の道』を切り開いた。
次回は火曜日〜




