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第54話 消えて失うことは

 白蛇様に抱き止められながら、私はおぼろげながらも消えゆく気配を感じ取れた。


 優しい何かが泡のように弾け。


 蕩けて取り込まれ……優しい何かが固まっていく。


 これは、何の気配なのでしょうか?



「……そうか。砂羽が裏八王の末姫とわかった今」



 白蛇様が立ち上がられたと同時に、控えていたのか沙霧のお兄様が……何か恐ろしい予感がしてたまりません。



「……結界にと、繋ぎ止めていた一部の十二神将が形を保てなくなりました。今は、四獣の位置のそれぞれが核を抱えています」

「鵺の道が整うと、か。余程、裏八王の本家は私と狼王を早く会わせたいのか?」

「……その先を見越して、でしょう」

「……白蛇様、お兄様。何が」



 お二人はわかっていらしても、私にはまだ全貌が掴めません。裏八王の姫としての情報もあねぇほど持っていませんから。


 ただわかったことは、この屋敷以外でご一緒していた『どなたか』が蕩けてしまったこと。おそらく、天一様や太陰様方が。



「大丈夫。外側が蕩けた程度でまだ済んでいるから。朱雀や白虎らが、彼らの核を預かっている。ただ、君の大事な彼は……今ただひとりだ」

「……え?」



 浮かんだ背中と苦笑いの表情が、足を動かすきっかけになっていました。全力で走ったことなど、この身体ではほとんどありませんのに……目指す場所だけはわかっていました。


 このお屋敷ではまだ数回程度。でも覚えています。


 私をこの『里』に導き、たくさんの『馳走』を振る舞って……穢れを拭ってくださった恩人であり、私がお慕いしている御方。


 転けそうになりながらも、走って走り続けて……音が聞こえる場所へと走れば。



「……来たか」



 少し疲れたような物言いでしたが、待っていたと振り返ってくださいました。苦笑いしつつも、こちらへと手を伸ばしてくださり……おいでと言わんばかりの表情で。



「……騰蛇様ぁ!!」



 愛おしさと悲しみが体を巡っていましたが。


 私のために、用意してくださったご馳走を見て涙があふれないわけがありません。抱きついても、止まるわけがありませんでした。



「……心配するな。天一や太陰らは朱雀たちが預かってくれている」

「……ですが、騰蛇様は」

「……俺は。お前を守護する凶将だからな。だから、姿は保てている」

「…………酷な役目を、す」

「違う」



 何か柔らかいものを口に入れられました。蕩けるように甘く、ふわふわで……最後に少し甘酸っぱい感じが。


『いつか口にした』美味しいお菓子でした。



「……美味しい、です」

「かなり久しぶりに作ったが、お前のためだからな? ちぃ姫」

「!?」

「巡り巡る機会……俺も逃さん。まずは、これを最後まで食べてくれ。皆を元に戻すのもそっからだ」

「……はい」



 裏八王の最後の食事の記憶。


 末姫だった時に、甘くて柔らかい『けぇき』を騰蛇様が再現してくださったのです。


 時流で百年以上は差がありますのに、覚えてくださっていたのが嬉しすぎましたが。泣き過ぎて、結局は食べさせてもらいました。

次回は火曜日〜

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