第53話 贄の代価
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ああ、ああ……どこなの?
『私』はどこにいるの?
あの子が引き離してくれたのは、わかっている。
あの子が掻き集めてくれたのはわかっている。
贄は、『蜜集め』。
裏八王の支柱に閉じ込められるのは、『斎王』と呼ばれる贄の代価。
姉である、『私』が埋め込まれ。
兄は『剣』として清浄を成す機会を見計らっている。
散り散りになった、裏八王。
だがこれは定められた『始祖の一族』の末裔が受け継ぐ、儀式なのだ。
天照が表に立ち。
素戔嗚尊が各地を巡り。
月夜見が境目に埋まり、ふたりが集めた穢れを『清める』ために使うのだ。
だが、それをどの段階で受け継いだのかはもう定かではない。
姿を。
名を変え。
何世代も巡り。
宗主の名を裏八王だとしたのは誰だったか。
気づいたのは、贄を多く輩出させて来た……水の波を感知するのを特化させた八王の家。
わざと、腐らせ。
わざと、積もらせ。
わざと、『砂羽』とやらを『私』に近い位置に来させた。
我らの、寄り添う獣たちの配下にすべく、贄姫にさせたが。
『……こんなにも早いだなんて。『私』はどちらでいればいいの?』
ひとりにさせてごめんなさい。
姉として、前世のどれかは受け止めてあげていたのに。
今世では、『ひと口』を蜜として取り込んだだけで……番うべき最愛を見つけただなんて。
『ふふ。貴女には弟だけど、今回の順番だと兄なのね? 私たちは始祖の一族の末裔……だけでいいのね?』
天孫降臨より、前の逸話を参考にはしているらしいが。蜜を貰い受け過ぎて……記憶が混ざってしまっている。水の流れで穢れを受けた身は、他の生きている存在が『絡繰』に見えてしまう。
温かさ。
冷たさ。
労り。
嫉み。
それらの感覚が、どうも違うのは私も妹と同じのようだ。
我らの咎は、根深かったはずが水のお陰で流れ易い。
たったひと口、最上の品を含んだだけで。
身も心も清めたあとに、『蜜』が私のところに来て……鵺の道を通じて、境目が凍ったり、蕩けたりした。
あれ全部、月夜見尊の咎だと知ったら……狼王は私の『最愛』を連れて来てくれるのかしら??
どーも、こちらでは姉の気質が強いから……『胤』を受けた先を連れて来る役目はあなたのようね?
『さあ、私を起こして。裏八王を再興させて……我が夫こそがその王となるの。剣と姫は我が駒でしかない』
温かい湯の中で、ゆっくり身体を起こしてみたけれど。まだ肉体は子どもくらい小さい。これから流れてくる『穢れ』が『蜜』と変わる瞬間ごとに、私の肉体も成長していくだろう。
『……誰の好みになるかしら? 月兎、貴女はそろそろ帰りなさい?』
狼王と呼ぶ、あの熊のように勇ましい兵よ。
まずは、この枷をひとつ取り除いてあげましょう。代価は我が妹の安全と、我が夫の捜索ね?
今どこにいるのかしら??
次回は土曜日〜




