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第53話 贄の代価






 ★ ☆ ★






 ああ、ああ……どこなの?


『私』はどこにいるの?


 あの子が引き離してくれたのは、わかっている。


 あの子が掻き集めてくれたのはわかっている。


 贄は、『蜜集め』。


 裏八王の支柱に閉じ込められるのは、『斎王』と呼ばれる贄の代価。


 姉である、『私』が埋め込まれ。


 兄は『剣』として清浄を成す機会を見計らっている。


 散り散りになった、裏八王。


 だがこれは定められた『始祖の一族』の末裔が受け継ぐ、儀式なのだ。


 天照が表に立ち。


 素戔嗚尊が各地を巡り。


 月夜見が境目に埋まり、ふたりが集めた穢れを『清める』ために使うのだ。


 だが、それをどの段階で受け継いだのかはもう定かではない。


 姿を。


 名を変え。


 何世代も巡り。


 宗主の名を裏八王だとしたのは誰だったか。


 気づいたのは、贄を多く輩出させて来た……水の波を感知するのを特化させた八王の家。


 わざと、腐らせ。


 わざと、積もらせ。


 わざと、『砂羽』とやらを『私』に近い位置に来させた。


 我らの、寄り添う獣たちの配下にすべく、贄姫にさせたが。



『……こんなにも早いだなんて。『私』はどちらでいればいいの?』



 ひとりにさせてごめんなさい。


 姉として、前世のどれかは受け止めてあげていたのに。


 今世では、『ひと口』を蜜として取り込んだだけで……番うべき最愛を見つけただなんて。



『ふふ。貴女には弟だけど、今回の順番だと兄なのね? 私たちは始祖の一族の末裔……だけでいいのね?』



 天孫降臨より、前の逸話を参考にはしているらしいが。蜜を貰い受け過ぎて……記憶が混ざってしまっている。水の流れで穢れを受けた身は、他の生きている存在が『絡繰』に見えてしまう。


 温かさ。


 冷たさ。


 労り。


 嫉み。


 それらの感覚が、どうも違うのは私も妹と同じのようだ。


 我らの咎は、根深かったはずが水のお陰で流れ易い。


 たったひと口、最上の品を含んだだけで。


 身も心も清めたあとに、『蜜』が私のところに来て……鵺の道を通じて、境目が凍ったり、蕩けたりした。


 あれ全部、月夜見尊の咎だと知ったら……狼王は私の『最愛』を連れて来てくれるのかしら??


 どーも、こちらでは姉の気質が強いから……『胤』を受けた先を連れて来る役目はあなたのようね?



『さあ、私を起こして。裏八王を再興させて……我が夫こそがその王となるの。剣と姫は我が駒でしかない』



 温かい湯の中で、ゆっくり身体を起こしてみたけれど。まだ肉体は子どもくらい小さい。これから流れてくる『穢れ』が『蜜』と変わる瞬間ごとに、私の肉体も成長していくだろう。



『……誰の好みになるかしら? 月兎、貴女はそろそろ帰りなさい?』



 狼王と呼ぶ、あの熊のように勇ましい(つわもの)よ。


 まずは、この枷をひとつ取り除いてあげましょう。代価は我が妹の安全と、我が夫の捜索ね?


 今どこにいるのかしら??


次回は土曜日〜

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