第50話 我は兄の審神者
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白蛇様と砂羽の会話をこっそり聞く形になってしまったが。
やけに、順当な段取りで『境目』が清浄になりつつある理由がこれで分かった。
砂羽の身体自体は、贄姫として都波が仕立て上げた『巫女姫』ではあっても。
その内側にある魂魄だけは、裏八王だった『皇室の末姫』だったのだと……これではっきりした。
何百年、何千年も『種』と『胤』の組み合わせを重ね。
一番良い、『皇室の粒』として継承してきた末姫。
それがまさか、『砂羽』だと誰が考えただろう?
誰が見ても、神将の騰蛇に懐いた幼児にしか見えないのに。あの子は『いつかの』魂魄を瞬時に見つけたんだ。人間であろうが、付喪神であろうが。それ以上の神の末席であろうが。
「……最たる者を、君たちは一瞬で求めたんだね」
幾星霜の月日を掛けても。
何をも犠牲にしてきても。
伊奘冉と伊弉諾の失敗を自分たちが最初だと知っていても、白蛇様と狼王様がそれを止めてきた。己らとて、種である『食事』を受けて引き離してきた最奥の岩戸であれ。
もう少し手前の岩戸である、僕と朱音よりも古いあの方々の悲しみと苦しみを。
「……凄いなあ、砂羽と騰蛇」
わずかな揺らぎだけで、騰蛇が探して。
わずかな目の煌めきで、砂羽は魅入られ。
お互いが、お互いの再往出来なかった『胤』だと理解したんだ。凄いで片付けられない。
「……となると、巫女姫ってことは。『半神』が裏八王の正体」
僕みたいに、切り離して永く生きているように作り変えただけじゃない。穢れを抜き切るのに、最愛が手掛けた『好物』をあれだけ食したんだ。
いくら食べても、痩せ細っていたわけじゃなかった。
神の供物を、この時の流れに来るまで時間をかけて抜き……再び、口にするまで耐えてきたんだ。
「なんて……最上の苦行なんだ」
僕と朱音が、白蛇様方に送り続けていた清浄な『氣』だけじゃ足りないそれを。
魂魄が整うまで、彼らにも知られぬように……いつから繰り返してきたか。全く、恐れ入るよ。僕らの本気の先祖たちの仕事っぷりには。
「この誤差……百年と数十年で済んだとしても、女側にさせたくないだろうに」
しかし、伊弉冉尊にとってはそうもいかない。死者を再生するからには、生半可な覚悟では異形との婚姻すら駄目だったんだ。
近親交配が実は危険だと隠すために……皇室とか武士らのそれを引き離すのに、裏八王はわざと術でそれを行使した。直也らも、これから戻るのに大変そうだなあ……。
僕と朱音はもともと問題ないけど、八王の『親側』である白蛇様と狼王様は……うまく戻れるだろうか? 『月兎』と『玄狼』という武を極めた相対が結ばれる手前だった、数百年前のあの頃まで。
次回は土曜日〜




