第49話 あの記憶
どこどこ?
ここはどこ?
かあたまは?
とおたまは?
あにぃは?
おねぇは?
あたしはわからない。
ただただ、逃げろと言われただけ。
逃げて逃げて。
外を変えに変えて。
あの子になっただけ。
核を嵌め込んだだけ。
我らの裏八王。
真実の記憶をすべて宿した。
贄の姫こそ、我ら也。
ただただ、漂う波の八王の哀れに……隠れただけ。
少し、休むようにとお兄様に言われ……私は寝所で天一様と太陰様とお昼寝をしていましたが。
古い、夢を見ました。
私が小さい頃に、何度も聴こえた『声』を思い出すくらいの、古い夢。
私の記憶であり。
私ではない記憶の繋がり。
私はただの、癒しの巫女姫ではなかった。
外の肉体は、都波の家の者だったかもしれない。でも、異界に投げ出され……受け止めた、核たる魂の根源そのものは。
今は亡き、贄姫の『最初』を排出してしまった裏の八王家。
私はその末。今代の末姫だから。
沙霧様でない、本当の兄のことも思い出せた。鵺の道で、滞った道筋を斬ったあの剣筋。
継承する『剣』しか使えない技であることを、贄姫の蓄積した情報で知り得た。
「……白蛇様」
本来の真名は違えど、私が呼んでよくはない。天一様方を起こさぬように、気をつけて寝所を抜け出して廊下を歩けば。
お部屋の近くで、白蛇様は煙管を使われていたのだった。
「……スッキリした顔でいるな?」
本来の仕草でないだろうそれは、隻眼にさせた左の布のせい。
狼王様の加護があるそれを身につけていないと、この異界の主に鎮座出来ないとされているが。情報の渦で体が震え、私はつい涙をこぼしてしまった。
「……我が一族の咎に、巻き込んでしまって申し訳ありませんでした」
裏として言えるのは、今これくらいでしかない。
本来、この言葉を一番に告げなくていけないのは狼王様なのだから。
白蛇様は少し驚かれていたが、おいでと手を伸ばしてくださったので懐にお邪魔しました。
「……我らが主、の末姫か」
「…………おそらく」
「そうか。直也が喜ぶだろうが……今は難しいな」
「……あにぃが」
「ははは。会えたら、是非呼んでやりな」
けれども、もうひとつ自覚したことはあったが……それも叶えられるかの確証はなかった。
神将様を恋慕う、浅ましい欲望は……良いの、かをだ。私はもう、巫女姫として嫁に望むのは騰蛇様しか考えられなかったのだ。
次回は木曜日〜




