第48話 可愛らしいが
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砂羽が『ねこまんま』を覚える様子は可愛らしいのだが、ひとつ疑問が出てきた。
八王の都波の家から『贄姫』に仕立てられたにしては……穢れをほとんど取り除いたにしても、『容姿に面影がない』のだ。
妹分として、引き取るのに異論はない。問題はないのだが。
(……行方不明の、裏八王の姫に?)
我ら、審神者を輩出した家々の『八王』の支柱となる裏本家。
少し前に、狼王様の『剣』として参上した直也の総本家である彼処。
怨嗟を受け過ぎ、散り散りになったと言われてはいたらしいが……それも現世の時間では十数年以上前。しかしながら、砂羽の年頃を聞けば納得がいく。
とくれば、裏本家の血筋も兼ねている我が八王の『水心』にも関わることになろう。
「……おかわり、欲しいです」
「「いくらでも」」
「遠慮はするな」
碌な食事をさせられていなかったと言うのも、贄姫への仕打ちの特徴だ。我が身とて、一度は贄にさせられたのだ。水心を継いでいる今の若き宗主は阿呆ではないようだが……。
「であれば、砂羽。少し味わいを」
ほんの少しだけ、一味をかけてやり混ぜるように告げた。ひと口匙を……と動かした彼女は気に入ったのかもぐもぐと匙を動かしていく。可愛らしい!
「ピリッとするんですが、もっと美味しく感じます」
「かけ過ぎはいかんが、最初はそれくらいでいいだろう?」
「朱音が……」
「加減をとは」
「……私とて、いきなりかけません」
自分の好みでは軽く山盛りかけるが、いきなりの子どもにそんなことはしない。砂羽は少し苦手のようだったので、ほんの少しでちょうど良かったみたいだ。
ねこまんまをたらふく食べたあとは、きちんと片付けをしたいと申し出るあたり……穢れで鈍った意識がもう解毒されてはっきりしてきたのだろうな。それは何よりだと、いっしょに膳を運ぶことにした。
「お姉様、これからたくさんお手伝いできるのでしょうか?」
「ああ、そうとも。私は普段現世側だが、兄の言葉も聞きつついろんなことを覚えなさい」
「はい!」
実の妹らはとうに鬼籍に入れられているだろうが、このように愛らしい存在だったか……もう思い出せない。
ひとまず、狼王様のところに戻り……裏八王家のことを聞きに行こう。おそらく、直也との対談で気づいたかもしれない。
(……我らの、最期を切る術を継承など。もう必要ないはず)
それを狼王様も、きっとわかっていらして……私を異界側へと行くように告げたのだろう。砂羽の顔と気配を確認し、白蛇様の側で仕えても問題ないかを調べるために。
気持ちがいいくらい、善を尊く受け入れているのだ。この子なら、きっと大丈夫だろう。本来の兄が直也であるのなら、きちんと会わせてやりたいが……まだ、だ。
次回から火木土




