第42話 何の声??
何か……声が聞こえた気がします。
ぽそぽそっとしていて、泡の中で弾けて消えてしまいそうな……。でも、しっかりと私の耳に届いてきました。
騰蛇様の赤黒い焔を、白くしたすぐ後です。どこから聞こえてくるのでしょう……? きょろきょろしても、私たち以外どなたもいらっしゃいませんでした。
「「砂羽??」」
「今、皆様ではない声が……」
「……聞こえたか? 朱雀」
「いや、全然」
ですが、空耳には思えませんでした。耳をすませ、どこから聞こえるか探してみましたが……あの氷の塊から、ぽそぽそとした音が聞こえてきました。
「御二方、こちらです!」
「は? そこ??」
「騰蛇、せっかくならその焔当てれば?」
「……っと。そうだな」
ひょいと言う具合に、騰蛇様が白く変わった焔を氷に投げつけ。
湯があふれるように、とろんと氷が溶けて水がザバザバと流れて来ました。私は足が濡れぬように、既に騰蛇様が片腕で抱えてくださっていましたが。
「ん?」
「……あれって」
氷が完全に溶けた下から……何かが泳いできました。ザッと水が噴き上がると、黒い塊が出て来ましたがヒトではありません。何本もの蛇の尻尾を持つ獣でした。
『ぶは!? 雑だなあ、おい!?』
「鵺……の片割れか?」
『応。白蛇様を、現世へ行かせぬまでの関……だったが。此度の異変により、それは壊れた。審神者の片割れは向こうで無事だ』
「……そうか」
ぬえ、と呼ばれた生き物。身体を振るわせて水を弾いたあとは……ふわふわしていて、触ってみたくなるような毛並みを披露してくださいましたが。
騰蛇様からの良い香りに、少しとろんとして寝てしまいそうでした。お仕事が終わっていないのにそれはいけません。
『しかして、その童はなんぞ? 愛らしいが天一らではあるまいに?』
「……此度の異変。その贄姫にさせられた」
『…………とうとう、阿呆を極めた八王がいたのか?』
「都波らしいよー?」
『最上の悪だ!』
やはり、私のいた都波家はどこでも嫌われているようです。しかし、これから変えられる可能性があるのも白蛇様に仰っていただけたのですから。
「……身内が、ご迷惑をお掛けしました」
これくらいの教養は受けている身なので、素直に謝罪したのですが。鵺様も騰蛇様方も、何故目を丸くされているのでしょうか?
『……本気で、沙霧以来の都波か?』
「……調べ直すか」
「意味あると思う! てか、向こう側の鵺は大丈夫そう?」
『あ、ああ。念話も特にないようだが』
「ただーいま!!」
どーんと音が聞こえたかと思えば、沙霧様が狩衣のお姿のまま……池から出て来られました。




