第39話 粗雑な扱いはお互い
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ほとんど、『ヒト』ではないと就任時点で聞いてはいたものの。
五年の月日を重ねても、本気で姿が一切変わっていないということは。この領域は神域に近い霊域とまで言っていいかもしれない。
時の流れとやらが大きく違うことで、彼らは老いも死にもしない代わりに。
縛られて、この領域に封じられる存在でしかないのだ。
「……え? ほんとに、直也??」
だからこそ、相当昔に会っただけの少年の姿が変わっていないのもそのせいかもな。
「おう。でっかくなったろ? 沙霧」
俺の従姉妹に呪詛返しをしやがった、都波の祖先らしいが。
実際のところ、忌み嫌われて封じた『呪詛の箱』と俺は聞かされ続けていた。
八王家の一端、焔の毒を司る『夜宴』。その本家筋に拾われた俺だったが、本質は何処の家かどうか知らん。
とにかく、目の前の熊公が俺を『剣』に任命する前から……俺はこいつに憧れていたんだ。
器の大きさ、懐の深さ。
俺にはねぇもんを、どうすれば手に入るとか。ガキらしい欲張りさだったが、今はそれどころじゃない。
街の中央区もだが、普段は曇って日の当たらないこの土地でさえ、相当な寒気で参っているようだ。座標を熊公にしても、わざわざ湯殿で和んでいるとは思わなかったぜ。せっかくの軍服がびっしょりだ。
「軍……と言うか。お前を含める、あちらとの繋がりだな? 相当影響が出ているようだな?」
「めちゃくちゃだぜ。相応の天災とかで、八王家もバタバタどころじゃねぇ……。剣である俺でも、鵺の道をやっと掻い潜って来れた。……沙霧んとこの都波が阿呆やらかしたことは聞いてる」
「ほう? 腐った上の連中ではなさそうだ。お前との繋がりか?」
「水の八王家でもキレた奴だ。俺はまあまあ信頼している」
つか、情報戦術はあいつの方が上だし、勝てる気がしない。今も下の連中に、俺以上の鞭打っている気がするよな。
熊公は幾度か瞬きを繰り返したが、何か考えがあってか俺の持つ刀に目を向けてきた。
「お前でギリギリ扱える、鵺の道。とくれば、『竜王』でもある俺の道を繋ごうとする連中も居そうだな? 少し、それを貸せ」
「……おう」
印を構え、さっと鞘に術を施したのか……一瞬軽くなったが、すぐにいつもの重みに戻った。
「今の鵺の道……境目の方が、氷どころで済まんからな? そいつで捌いてもらえんか?」
「……剣の使い方かよ」
「俺の剣だから、いいんだよ」
仕方ないが、寒くても外に出るしかない。道の中間地ではなく外の大穴。
表では濁流で、地面も無茶苦茶だが……パキッ、パキッと凍っていく始末。
これを止めるれるのが、この剣だけならば……と鞘から抜き、弧を描くように水面を一閃したんだが。
「……は?」
薙ぐように動いただけなのに、ザックリと何かを切った感触もあった。
さらに、大穴を繋ぐ川の表面は……しんとしたかのように音と動きが止まった。




