第36話 羨ましがるので
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異界側で、あんなにも美味しそうなご飯を囲む風景を見せられたら……僕も僕で動くしかない。
「腹が減ったら、なんとやら……狼王様も羨ましがるだろうからなあ」
「……私も、食べたい」
「じゃ、久しぶりにいっしょに作ろうか?」
「! ああ」
朱音はどちらかと言うと、調度品を整える方がうまいのでそちらを頼み。
僕は、出来るだけ騰蛇が作っているものと同じ料理を作ろうとしたが。材料が必要以上に、寒さで冷凍されてしまってたので……術で適度に解凍しながら作り始めた。
「……下っ端も下っ端。最初の贄の箱として『審神者』に仕立てられた僕が、今ここまで生きながらえていると知ったら……あいつらの家に化けて出るって言われそう」
実際のところ、異界と現世の時間流は同じのようで、そうでない。
教養も。
食事も。
文化も。
戦も。
術の在り方さえも。
変わることは多いけど、変わっていないのは欲の在り方。
自分らの繁栄をさらに搾取したい愚か者の思考……数百年経っても変わらないのは、贄姫の風習を作ったのと同じ。
こちらがその風習を止めようにも、介入したくても主である御二方の力が、もう届かない位置にいた。今封印が解けていなかったら、砂羽は確実に身体を喪う贄姫にさせられていたはず。
早い段階で、騰蛇が気づいてくれて良かった。
異界の維持もだけど、贄姫の悪習を終わらせる機会がこれで得られた。先程、掻き散らすように篠笛の調べが聞こえてきたから……狼王様も容赦しないと見た。
朱音のところの実家側はもう跡地しかないが、僕の都波を含める『八大竜王』を統べる主神として……潰えるものは容赦しない、封印の儀を終わらせる調べだ。
大昔だと畏れていたけれど、今では祝いの調べに聞こえてしまう。
「……僕もつくづく、こちらの存在になったと言うことか」
肉体はあれど、不死に近い。
神の供物を共に食す意味があるのだから……今は幼くて当然。
刻を動かすのは、我らが王である狼王様と白蛇様だけだ。
彼らの恋路を邪魔したからこそ、悪しき因習も続いてきた。
大正と時代が変わってきた、今だからこそ。
僕らの因習を終える機会に恵まれたんだ。馳走を用意し、卓を揃え。疲れ切った狼王様を朱音が連れてきてくれてから、僕らも食事を始めることにした。
「「「いただきます」」」
さあ、本当の『浄化』への風習はここから。
身体の穢れは食事などで出さなくちゃね?
満腹になってから、僕も鵺の道を繋ぐために……英気は養わなきゃ! 砂羽に改めてお礼言いたいもん!!




