第32話 想像以上はこちらも同じ
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沙霧が単に、鵺の道を通れないだけだと思っていた程度が。
「……ぐっ。俺でも、これは寒い」
久しく、綿布をたっぷり詰め込んだ衣だけでなく。今時に表側で扱う毛布などで体を包みはしたものの。わずかに暖を取ることしか出来んほどに……獣の化身とまで言われた俺でも寒くて凍えそうだった。
だが、今。
異界の、契約上は妻の白蛇の方がもっと大変だろう。元凶となった『贄姫』の箱を抱えて、穢れまみれになっているのは水鏡越しでも見えた。
俺の方には、冷気という形で『災害』が起きていても……かつて、地表を覆った氷雪と思えば、まだマシな方だ。
代わりに、俺と白蛇を『誤って』祀っていた連中らに舌打ちしたくなるほど……あの娘が可哀想で仕方ない。
白蛇も隻眼の縛りがなければ、えずく程に泣き腫らしただろう。それをしないのは、『男の心』を少し借りていなければ……この穢れを焼くなどと言えるわけがない。
「『種』を穢れに化して……贄姫という『器』に仕立てる。何代組み合わせを講じて……俺の『妻』へと祀ろうとしたんだ?」
込み上がる怒りで、反吐が出そうだ。
俺の妻は、ずっと前に決まっているのに……現世の、縁戚らの子孫たちは間違った口伝を受けたか。都合のいいように解釈したか。
いや、そのために『贄姫』を何度も送り込んでは、俺を白蛇を引き離しにかかったか。美しき月の蛇は、神の供物だとどいつかに唆して。
合点がいきそうになるが、決断はしてはいけない。
この機会に、白蛇との繋がりをこれ以上引き離すつもりは毛頭なかった。
「……伝わってくるよ。お前は、本当に優しいな。月兎」
白蛇は飾り名。
俺の一部で『男の片割れ』を持つものとして、外側を勇ましく囲っただけに過ぎない。本来なら、か弱き女でしかない……俺だけの最愛。
まさか、あの砂羽を娘にしたいと気持ちが込み上がるとは……俺を通して受けた穢れも剥がれかけている。女としての本性も限界か。
「なら。砂羽を『竜王の娘』として、その器を固めてやろう」
篠笛を取り出し、壊れてもいいくらい吹き鳴らし。
僻地にある元凶の家を壊す勢いで、この災害の矛先を変えさせることにした。
俺もいい加減、堪忍袋とやらが……限界だからなあ?
容赦はせん!!




