第31話 穢れの箱
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想像以上としか言えん。
髪や背から溢れてくる、これまでの『穢れ』が壮大と言えるくらいに酷かった。用意していた敷布が黒く染まる以上に、どろりと溶けてしまった。
床などは、沙霧たちが施した清浄な結界のお陰で保ってはいるが……このままでは良くない!
「騰蛇! 私は自分で砂羽ごと守る!! だから、穢れを焼け!!」
「!? …………承知!!」
疾る焔の中は砂羽も熱かろうが、それどころではない状況。幼くない呻き声を聞くたびに、こんな幼い子どもを形代にさせる親の顔が見たいものだ。
私と狼王を引き合わせなおために。時間の軸が違う互いの神域を交え合わせれば、天罰が起きるなど……誰が勝手に呟いたわけではない。私自身がこちらの神域に慣れていなければ、あの豪胆でいて優しい男は理を壊しても私を得ただろう。
だからこそ、私はあれに倣った風貌でこの神域の中に埋めてもらったのだ。それを捻じ曲げた考えとしてしまったのは、我らの責任もある。
出来るだけ氷塊に等しい結界は張り巡らせたものの、地獄の業火とも言える騰蛇の炎は基本的に『滅』のものなので……少しでも熱いことに変わりない。
叫び続ける砂羽をなんとか抑えてはいるものの、子どもの力でないそれを親世代に近い私でも困難とは。
(……すまん。すまん、砂羽!!)
あとで、またたくさん欲しい馳走を食べさせてやる。
遊びも知らぬようだから、天一らと共にたくさん遊ぼう。
寝るならたっぷり眠っていい。湯もたくさん浴びていい。
それを叶えてこれなかった、その責任。
すべて、私が母代わりになってもいい。むしろ、狼王と夫婦の契約をすでに結んでおる身として……養女に迎えてもいいだろう。
こんなにも愛らしく、清しい心を持つ幼子を迎えるのは皆同意していた。沙霧の子孫にしては、擦れた性格もない。
「……あ゛ぁあああ゛!?」
悲痛な叫びは、どこまで届くか。
十二神将らは、どこまで主人の意図を汲めるか。
頼むから、私がすでに施した水害以外の意趣返しはやめて欲しい。道が繋がらないと、我が夫もこちらへと来れぬからな。




