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第28話 風と闘

 全く、贄姫がまた投げ込まれたと聞いた時には……いささか、腹が立ったが。


 その機会が出来たことで、1200年以上もの月と陽の楔に綻びが出来たことには喜びを隠せん。我らが主である沙霧でさえ、百年ぶりに白蛇様の屋敷を飛び出せたのだ。


 我はまだ会ってはいないが、件の呪術師の贄にさせられた『砂羽』とやらは……何やら、とても愛らしい性格と出立ちらしい。そして、我の側にて控えている勾陣と同じ苛烈な性格の『騰蛇』にはひどく懐いているそうだ。



「……俺は姿を変えれるが、いかんか? 白虎」

「…………天一とは違うんだ。叱るのが我だけで済まない」

「そうか。であれば、仕方ない」



 衣を着込んでいる勾陣は今でこそ、男体を取っておるが。幾度か天一のように、性別を変えて顕現した経緯があるため『どちらとも』取れるのだ。


 とはいえ、我の記憶でもそれは主が沙霧より前になる主従の時。


 今は沙霧が望まない限りは、女体に変化することがあまりない。それに俺は騰蛇の苛烈な叱り方が苦手なので、面倒ごとは被りたくなかった。



「はいはーい! おかわりできたよー!!」



 場を壊すくらい明るい声で、天一が例の『桶』を廊下へと寄越してきた。


 中には相変わらず、邪気まみれの黒い玉砂利が山ほど入っていた。


 この『呪詛』こそが、代々贄姫に蓄積させていた『封印の枷』とも言うのなら……我らは随分と遠回りしたものだ。贄の最後を看取っただけでは良くないと、常々思う。


 これをただ単に浄化するのではなく、『異界との狭間』に流すことで穢れを打ち消す方法があるのだ。


 現世に柱と置かれている狼王様を、これ以上おひとりで過ごさせないための、最上の策となればいいが。沙霧が戻って来れんとみると、向こうでは豪雪と濁流でひどい天候だろうな?


 こちらが穏やかな気候を維持する期間は、あちらとのズレを修復する大事な頃合いだ。


 俺は肩巾を使い、もう何度か目になる旋風に桶を乗せて……上空へと飛ばしたが。



「……今度は雲が晴れたな?」

「……なんともまあ。溜め込んできたものだ」



 己の利益しか考えない愚か者こそ、哀れでしかない。かつての主の中には……仇を哀れむほど優しい人間もいた。沙霧の母親だったが、沙霧はそれを知らん。


 息子と引き離され、贄姫にすぐさせられてしまった被害者。だからこそ、我ら十二神将はその息子を護ろうと盟約を引き継いだ。


 砂羽とやらは、一応沙霧の子孫らしいが……百年以上もの月日を経ても根本を変えぬ、あの家を俺でも哀れに思う。それでしか、存続叶わぬと勝手に思うのだからな。



「白虎〜? あったかい風貸してー? 砂羽の穢れだいぶ取れたの!! 一気に乾かすよ!!」

「……いいぜ」



 沙霧の子孫ゆえに、穢れが剥がれるたびに愛らしくなるらしいが……さてさて、今日こそはその顔を拝めるかな?


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