第27話 新しい朝
いい匂いに、眠りから意識が起き上がっていきます。
目を開ければ、右には天一様。左には太陰様。愛らしい寝顔ですやすやと眠っておられました。夢偽りのない、本当に異界へと来てしまったのは私だと……改めて思いました。
白蛇様にあれからご挨拶しておりませんが、私に出来るお仕事はいくつかあります。
贄姫に仕立て上げられた穢れを落とし。
くちくするまで、ご飯をたっぷりと食べ。
封じられかけてた、癒しの力をゆっくりと解放する。
もちろん、休むことも大切。
元いた現世という世界側では沙霧様がしばらく戻られないほど……天候が荒れているために、私が戻るのは難しい。そもそも、私を道具扱いしてきたあの呪術の家は健在かも怪しいそうです。
数々の贄姫らの『呪符』を、傷んでたと思った髪に染み込ませていたらしく……白蛇様は逆に呪詛返ししようとおっしゃっていただけました。
『あの家は私の生家もめちゃくちゃにしたんだ。代わりに意趣返しくらいさせてくれ』
と、意地悪そうな微笑みで言われては頷かないわけがありません。まだ一日程度ですが、私も如何にあの生活が『普通でない』のをこちらで学んだばかり。
新しい生活とその朝をきちんと迎えなくては。
「……でも、無理に起きなくても……良いのでした」
あったかくて、ふかふかのお布団に丸まって。行儀の悪い寝方をしても怒られない朝。太陰様はともかく、天一様は布団を投げ出されていましたので……お布団をかけてからもう一度寝てみました。
まだまだ、抜いた穢れで身体が整っていないため。眠いのも仕方がありません。目を閉じれば、とろんと微睡みが起こり。次に開けた時には近くにいたはずの御二方がいらっしゃいませんでした。
「起きたか、砂羽。湯殿の用意をしたぞ」
太陰様がいらしてくださったので、とろろと眠りこけていたようです。お叱りがないため、きちんと起きれることを確かめてから後ろについていきます。
ご飯も大事ですが、きれいになれる湯殿はとても大好きです。
今日は、『磨く』を重視するために私は単衣を着ず。
専用の香油で泡に包まれるのが仕事だそうです。
「砂羽は湯椅子に座って。髪もですけれど、肌の奥にある穢れを抜いて行きますわ!」
天后様の指示通りに、天一様と太陰様がわしゃわしゃと私の肌を泡立ててくださいましたが。
どんどん、あの黒い玉砂利がこぼれて行きました。それは天后様が直接触れずに用意していた桶へ術で投げ込み。
積み重なったら、外へと出されていきます。外には殿方の神将様がいらっしゃるそうですが、朱雀様以外聞いていません。騰蛇様は、ご飯を作っているのでしょうか? 昨日たっぷり食べたはずなのに、湯浴みのお仕事でもう空腹が始まりました。




