第26話 噂の主側は
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「あーあ、可愛く餌付けされちゃって」
あまりの寒さと、鵺の道がしばらく使いにくいからと狼王様の屋敷に滞在しているんだけど。水鏡だけ使って、向こうの様子を見てみれば……砂羽は僕の十二神将たちに、まるで雛鳥のように食事を与えてもらっていたが。
僕から見ても、穢れとかが剥がれて可愛くなる妹は……兄代わりとしては可愛がりたい気もする。実の兄にしては、年代がかけ離れているけど……異界と現世の刻は同じで違うから、砂羽のいたあの屋敷での刻はこちらでは昨日のことのよう。
ただし、抑えてくださったのは狼王様たちのおかげだ。僕と朱音だけではとても出来なかった、穢れと穢れの衝突が可能になったんだ。
今は、せめてこれまでふくふくに育ててもらえなかった……可愛い餌付けくらいはさせてあげよう。凶将の騰蛇とかにも懐いているようだから、そこは良かった。穢れに触れれる最恐にして最凶。
けど、畏れを恐れにしない分、やはり僕の子孫と言えるかもしれない。僕も勾陣とかには最初頼りにしていたから。
「ほほう? 沙霧殿に少し面影があるようでないように見えるが」
「契約次第では、君の妹にもなり得るよ?」
「……それは気になる」
火の幻術が追いついていないので、わた布団にくるまりながら……僕と朱音は水鏡を覗き込んでいた。務め以外で触れ合うのだなんて、相当久しぶりだからとても心地が良い。
砂羽の騰蛇への懐き方が『本物』だったら、ちゃんと教えてあげたいものだ。贄姫だったが、癒姫になれるのであれば。異界の食事を口にすることで身体はいくらでも作り変わる。
それは、僕と朱音と同じように。
「髪の穢れが一番酷いから、都波の領地は区画から外れている。……救命措置が間に合っても、あれらはもう終わりだ」
「……我の八王の方もだろうか?」
「…………そうかもしれない。そちらから贄姫を寄越さなかったということは、砂羽へ全部集中させたのだろう」
ムカつくが、僕らも助かったのだから……砂羽に出来ることは色々してやりたい。これから現世側で百年単位もかけて作り直すのだから、今精一杯甘やかして当然だ。
誰と番うことであれ、あの子は愛される生活をしていいのだから。
「であれば、やはり姉として……私も会いたいものだ」
「いいと思うよ。異界と現世の並行……それはこれからの僕らの仕事だ。砂羽の幸せのひとつを家族として……支えてあげようよ」
「水鏡越しなのに、私でもそう思ってしまう」
例えるなら、無垢な犬か猫かもしれないが。意思があるし、育ちの関係で賢さは損なわれていない。
であれば、きちんと側仕えとして白蛇様との主従関係を築ければ……僕も本来の主である狼王様のところへ帰れるだろう。朱音の責はこれ以上かけさせたくないからね。




