第25話『ぱん』というもの
今日の晩御飯は『おまんじゅう』に近いものを出していただきましたが。
おまんじゅうのように、白や緑ではなく……外側は、優しい茶色をしたふわふわした丸です。説明を聞くまで、手を出さずにじっとするのも作法のひとつなので動きませんでした。
「これは『パン』という。主食のひとつで、大陸側にあった国の食いもんだが……日の本にも大昔から似たのはあったんだ」
「……このままでしょうか?」
「今日は基礎的な食べ方が最初だな。まずは、手で割ってみろ」
「! ふわふわしてます!」
おまんじゅうとはまた違った手触りに、びっくりもしましたが。まだ食べる段階ではないそうなので、次を待ちます。
「次は、ちっこいナイフで別にある黄色の塊をすくえ。んで、パンに塗ってから食べてみな」
「……では」
西洋食器の使い方も、少しだけお教えいただいていますので。手順通りにしてから食べてみますと……ふわふわなのに、わずかな塩気と相まって蕩けてしまいそうでした!!
「いい顔してんね、砂羽。騰蛇も作り甲斐あんじゃない?」
「……まあな」
パンはまだたくさんあるそうなので、ひとつはその食べ方で胃袋に入れてしまいましたが。まだお腹には余裕がありますので、他の膳を見ていきます。葉野菜、主菜に副菜……とタレですが。
お米がないので、パンとどのように組み合わせていくのでしょう? 汁物も一応はあるのですが。
「……あとは、いつも通りではなく?」
「それもいいが。行儀作法を気にしない食い方、一度でいいからしてみたくねぇか?」
「気にしない?」
おにぎりも食べ方のように、手ずから……というものでしょうか?
ですが、楽しげな騰蛇様の提案を無駄にはしたくありませんので……頷けば、騰蛇様がパンの割り方から教えてくださいました。
「葉野菜、主菜の順に載せて……タレをたっぷりかけろ。あとは、握り飯のように齧りつけ」
挟む、という食べ方はたしかに初めてです。
たしかに、手づかみはおにぎり以外では今日が初めてですが。その食べ方を『はしたない』と思わない方々とのご飯です。
騰蛇様の笑顔がなくなる前にと、少し口を大きく開けて齧りつきました!!
主菜のお肉も美味しいのですが、タレをたっぷりかけたことで生の葉野菜もとても美味しいです!! むしろ、これが正解と言わんばかりに……私は手の中にパンが無くなるまで食べ続けました。
「……急ぐ必要はないけど。『サンドイッチ』ぽいのでこれってことは」
「また似たの食わせ甲斐があるな。マジで、都波の連中滅べ」
「同感。沙霧とよく似てるし、可愛いいしね」
夢中だったのでお話は聞こえていませんでしたが、ひとつ言うことがあったのは。
「……おかわり、いただきたいです」
欲しいのなら、腹がくちくするまで平らげろの任務でした。それはそれはとても嬉しくて魅力的なお仕事です。




