第20話 狼王の領域では
派手にやらかす……とはなんとなしに予想はしていたのだが。
(…………やり過ぎだっ)
如何に、俺と会えんかった期間分の負荷が溜まっていたにしろ。
沙霧から聞いた『贄姫』の穢れを利用に利用して、境目の血毒を洗い流したにしても……だ。こちらから向こうに道を繋げるのは、かなり難しい。
あふれこそしていないが、道を繋ぐ川そのものが濁流となり……空からは暴風に加えて雪。それくらい、浄化出来なかったのは俺の落ち度でもあったが……俺の炎に化けた蜜を吸い尽くして、この仕返しをくれた。
天候が落ち着くまで、向こう側へ俺が行くのも怪しい。仕方がないので、吹き出してくる湯を浴び続けていた。
「……ははは。意外とぬくい」
いつもは凍るような水を浴びる側だったが。異界との境目で区切った向こう側はどうだろうか。本来なら、現世側で余生を過ごす予定が『狂わされ』てしまい、離れ離れとなって幾数年どころですまないのは当然。
神代の血筋を薄くても受け継ぎ、人とあやかしの合いの子として生き続けてきたが。人は人で。あやかしはあやかしで。
統治の出来なかった、我らの祖先の自由さを穢しに穢し尽くしてくれた。それを、たったひと粒の汚れくらいで洗い流せたのだ。地面が多少浸かってしまったところで、俺は気にしない。
「狼王様!? なんとかしてください!」
「屋敷には、白蛇様への贈り物も多いのでしょう? 沈みますよ!!?」
「……それはいかん」
せっかくの品々が台無しになるのは、俺としてもよろしくない。隻眼を解放して、焔の狼や狐らを生じさせた。湯となった水を枯らすのではなく、氷漬けを溶かすための誘導として。
あとは、俺が鬱憤を晴らすのも兼ねて吼えまくればいい。
世は叫べ。
何処と知れ。
俺の最愛を幾百年以上も引き離した覚悟。
埋めとして、数々の贄姫とやらを寄越してきたが……そちらには最悪の事態を起こしただけに過ぎない。
積もりに積もった、あいつらの穢れを審神者を通じて解き放たれたと知られれば。唯一、天帝との繋がりがある俺の咆哮を帝とやらが聞いてみろ。
偽りの聖なる女などをつくった呪術師とやらで、処罰を受けるだけだ。
その最初として、沙霧を異界に投げたのが最悪だったな。神代の稚児だと知らずに殺そうとしたのだから。
濁流は少し落ち着き、足はまだ湯に浸かったままだが……しばらくこれでいいだろう。奥地の寒さから一変して、湯治場になったのも良いものだ。
それでも、鵺の道はまだ形が定まらないらしく。久しぶりに沙霧が朱音のついでとやらで馳走を振る舞ってくれることとなった。




