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第19話 月の蛇を舞う

 袖の長い単衣。


 敢えて、それを選んだとばかりに白蛇様は地面にもつきそうなそれを引きずるようにされながら……泉の近くにまで歩み寄られました。


 軽く口で笛を吹き、袖を水で濡らす術を。


 少し重そうな袖になりましたが、私よりも力のある白蛇様はぐるんぐるんと左右に回したりするのも余裕そう。何が始まるのか気になりましたが、声をかけてはお邪魔だとじっとしています。



「……さて。感覚的には百二十年。あいつと私を引き離した年月分だ。その邪を返そうか!」



 右の袖がぐるんと回れば、大きな滴の中に黒い粒が。


 左を回すと風送りのように、浮いて空へと向かっていくようです。


 幾度か同じ動作を繰り返されてから、白蛇様の足が動きました。



影切花(かげきりばな)



 耳に届いた言葉と同時に、上に行った水滴が落ちて来るようでしたが……白蛇様の少し上で止まったのです。空の方ではぐるぐると渦のように巻いていましたが。



「雨を斬るのは、私でもちと難しい。切って切りまくるから……少しの洪水程度は我慢してくれ!!」



 袖をバタバタ振っているように見えて、風の刃が見えたような気がしました。ふわんと、水を切ったかと思えば上に持ち上げる……数回繰り返して、土台のように固まった。


 出来上がるまで、白蛇様は舞うように袖と足を動かされていました。



「……向こうは洪水で済むか?」



 騰蛇様がぽつりと、そのような言葉をつぶやかれました。あの水柱の行き先はわかりませんが、届いたらたしかに大変そうです……。



「参、弍……せぇの!」



 袖と足の動きに合わせ、水柱はどんどん空へと持ち上げられていきます。あれは、どこへ向かうのでしょう? 異界の外、ということは私がいたあの家のある現世……でしょうか? 


 何故でしょうか。


 あれだけ……利用されていたからかもしれませんが、両親以外の仕えてもらっていた側仕えにも、一切の未練はありませんでした。



「……散らせ。肺が凍る寒さを溶かす湯となり」



 そして、その最後の言葉。土台は一気に空へと持ち上げられ……見えなくなりました。これで向こうが水であふれてしまうのでしょうか。



「ははは! いい仕事をした!! 落ち着く頃には、あいつもこちらへと来れるだろう。さて、砂羽の部屋か」



 実に晴れ晴れとした言い方で、白蛇様は長い袖を適当に肩へとくくりつけていらっしゃいました。新雪のように白い肌ですが、肩口には何か鱗のようなものがありました。



「……だいぶ、派手でしたけど。狼王はもとい、沙霧はこちらへ戻って来れるんでしょうか?」

「うむ。まあ、朱音との刻限を作る意味でも……向こうにいるかもしれんが。その間、砂羽を私の式のひとりに鍛えてやろうと思っている」

「…………正気、ですか?」

「こちらの食い物を口にしたのだ。冥府ほどでなくとも、現世側での生活は厳しかろうて」

「……ですね」



 お話を聞くに、騰蛇様のご飯を食べてはいけなかったのでしょうか。ですが、二度と食べていけないと言われてしまったら……否と返してしまうでしょう。あの美味しいご飯が食べれないのは、絶対に嫌です。



「天后らはいつも通りなら……この庭は冷やして置くか。私もまたあったまりたい」



 まだ水滴が残っていた袖が、パリッと仕上がるほどに水が広がり。地面が濡れた先から白い積もった雪へと変わりました……。



「凄いです! 呪言(ことほぎ)抜きに!」

「ん? 砂羽は必要なのか?」

「……習っておりません」

「素質はありそうだからな? 式として、しっかり鍛えてやろう。……であれば、近侍の部屋を沙霧と交代させておこうか? 私も女子の方が安心する」

「きんじ?」

「側仕えと同じってことだ。入れ替え……はもう?」

「しておいた。沙霧も気づくさ」



 そう言えば、沙霧様はいらっしゃいませんが。何処かへ行かれたのでしょうか? お部屋に改めて案内していただきましたが、赤と白の愛らしい人形部屋のように、整えられたお部屋でした。

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