第18話 雛鳥のように
天后様に、まるで雛鳥のように箸で与えられるような食事も美味しゅうございますが。ある程度のところで、騰蛇様が天后様に注意されたことで中断されました。
「いい加減にしろ。砂羽の好きなように食わせてやれ!」
「あら、騰蛇? 砂羽が愛らしいのはもちろんですけれど、気にし過ぎではなくて? 見つけた順は愛でるのに関係ありませんわ」
「詰め込み過ぎだっつーの!? 茶くらい飲ませてやれ!!」
「ふぉごだぎいふじ」
たしかに食事は美味しゅうございますけれど。どんどん口に入れていただくので……味わいが難しくなってきて、口いっぱい詰め込まれてしまいました。噛むのが少し大変になるくらい……。
「ん、飲め」
返事は出来ませんでしたが、玄武様から湯呑みを渡していただいたので……有り難く頂戴しました。飲んでは噛むの繰り返しをしたあとに、やっと口の中が無くなりましたし、お腹もいっぱいになりました。
「……ご馳走様でした」
「あら、砂羽? もう良くて?」
「だ、大丈夫です! たくさんいただきました!!」
「でも……」
「ゆっくりで良いだろ。まともな食事すら、相当久しぶりならさっきの量のあとでも充分だ」
撫でてくださる手の温かさに、きゅっと胸が痛むのは何でしょうか?
気にしてはいけませんと、お片付け……にはまだ程遠いくらいに食事がありました。私は何をお手伝いすればいいのでしょうか?
「……お仕事。しなくて良いのでしょうか?」
「そう焦るな。砂羽が来たことだけで良い方向になっているだけでも、凄いんだぞ? 残りはとりあえず、こいつらに食わせてやれ」
「うふふ〜。お酒もたんとあるのは、騰蛇らしいですわぁ」
おさけ、はわかりませんが。天后様が赤くて大きな盃を手に、何か水のようなものを飲まれていましたが。飲まれたあとに、けっぷと咳をされたのは少し可愛らしいです。
「玄武。いつも通りでいいから、酔っ払いはまかせた。砂羽、そろそろ白蛇様んとこ行こうぜ。部屋の割り振りは主人だから聞かんとな」
「あ、はい」
こちらはこのままで良いのなら、騰蛇様のお言葉に従うまでですが。廊下へ出たあとに、大きな音が聞こえても騰蛇様には行くなと肩を掴まれました。
「酒乱の酒盛りを抑えされんのは、玄武だけだ。砂羽は気にしなくていい」
「……そう、ですか?」
「まあ、他にもあるが。そろそろ……」
さっと、騰蛇様が肩を抱き寄せてくださいましたが。向かう途中だった白蛇様の前に、幾つもの炎があって火事ではと思いましたが。
その炎が動物のような姿をしていたので、私でも違うことがわかりました。式神、と言う呪法のようなものでしょうか? 都波にいた頃、側仕えが紙で作っていたのは覚えていましたが。
「来たか、騰蛇に砂羽」
物陰から白蛇様が出て来られ、炎を撫でられたかと思えば。口を寄せて、吸われたのです!? 熱くないでしょうかと普通に心配になりましたが。
「最上の『蜜蝋』を口にされ、気分が良いようですか」
「……くくく。夫として契約を結んだが、これほどまでに心地が良いのは久しぶりだよ。砂羽にまとわりつく穢れをそのまま使うとは」
れろっと、舌を唇に這わせるのは艶めかしくてびっくりしましたが。どうやら、火傷などはされていないようでほっと出来ました。
何回か、炎に寄られて吸い続けると火はどんどん消えていきます。食べて……いらっしゃるのでしょうか?
「……儀をされると」
「こちらでは安寧のようで、向こうは違う。であれば、炎を寄越してきた分の解凍作業は請け負うさ」
そして、湯殿の時のように単衣ほどの衣裳へと着替えられ。
庭の真ん中で、掛布を使いながらふわりと舞い始めたのです。
髪も襟足から長いのは、この時初めて気づきましたが。




